2015 Fiscal Year Annual Research Report
生体電子プロトン輸送機能に着目した普遍金属元素を用いた水酸化触媒の開発
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15J10450
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大岡 英史 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 酸化イリジウム / 水酸化触媒 / pH / プロトン / 分光法 / 中間体 / 遺伝情報 / 酵素修復 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、水酸化反応(2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-)は水の電気分解による水素発生や二酸化炭素還元を行うための電子源として大いに着目されている。人工材料の中では、アモルファス型の酸化イリジウム (IrOx) 触媒が最も高い活性・安定性を併せ持つことが知られており、200 mV程度の過電圧でこの4電子反応を効率的に駆動することができる。一方、MnO2などの3d遷移金属触媒は特に中性pH下においては500から600 mV程度の過電圧が必要である。従ってIrOxを安価な3d金属材料で代替するためには異なる活性のメカニズム、とりわけpH依存性と金属の元素戦略の相関の理解が重要であると考えられる。 本年度では、IrOxの水酸化触媒能がpHに依存せずに約1.45 V vs. RHE(可逆水素電極)で顕在化し、さらにin situ光導波路分光法を用いてその活性の起源が450 nmに吸収極大を持つIr5+に由来することを見出した。この中間体はpH 2,4,6,8,10,12の全てにおいて電位を1.2 Vより正に掃引すると出現し、また、水酸化反応のに電子中間体に類似したH2O2を添加すると、この中間体の出現は抑制された。以上より、この中間体は水酸化反応の律速段階であるO-O結合生成を担うものと考えられ、これらの成果は現在Physical Chemistry Chemical Physicsに投稿中である。 また、上記の電気化学的・物理化学的手法に加え、天然の水酸化酵素:光科学系II、及びその逆反応を担う酵素:シトクロムCオキシダーゼの遺伝情報の調査にも取り組んでおり、既に国際学会等において生体エネルギーバランスに基づく天然酵素の元素戦略について発表をしている。これらの成果は近日中に学術雑誌に投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的はpHに関わらず水酸化触媒活性の高い貴金属触媒IrOxと、安価なMnO2などの3d遷移金属触媒の触媒能の違いをプロトン・pHという観点で理解することである。当初の予定ではIrOxの高い活性の起源が水をプロトン・アクセプターとして用いることができる点であることを検証する予定であったが、pH緩衝能の低い電解液中では水酸化反応中の電極近傍のpHが変化し、また水自身のプロトン乖離平衡等の影響により、直接これらのことを観測することは困難であった。 一方、分光測定により直接IrOxの中間体を検出し、さらにその吸収極大が酸性・中性・塩基性全てにおいて約440-450 nmにあることが分かった。プロトン化・脱プロトン化による吸収極大の変化は通常30-50 nmのオーダーであるため、IrOxは幅広い液性において共通の触媒メカニズムを有すると考えられる。これは液性により律速段階が変化するMnO2と対照的であり、この点において貴金属触媒と3d金属触媒の相違があると考えられる。 また、上記物理化学手法に基づく成果に加え、天然の水酸化酵素:光科学系IIの遺伝情報を解析することにより、生体内の水酸化酵素はその逆反応を担う酸素還元酵素と比して、活性と同程度、あるいはそれ以上に酵素の長期的安定性や修復の容易さを優先したことが分かった。これは年度頭では想定していなかった解析手法であるが、この手法により得られた生体酵素の元素戦略についての知見は、電子移動を専門とする物理化学者のみならず、遺伝情報を専門とする生物学研究者が多数集まる学会等でも良い反響が得られた。これらの成果は近日中に学術雑誌に投稿予定であり、また、次年度以降も他の多電子移動酵素に容易に発展させることができると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、IrOxの水酸化中のプロトン・アクセプターの特定を行うため、pH 1のような強酸液性条件下において電気化学測定を行う予定である。回転電極と組み合わせることによりH+ ・OH-の電極表面への流束を制御し、IrOx自身のプロトン輸送能の評価が可能となると期待される。さらに、この系にH2PO4-やH2BO3-などのプロトン授受を促進する分子を添加し、両条件のもとでの反応速度を比較することで、IrOxと水分子の間のプロトン授受能の評価が可能となると考えられる。 また、水酸化反応に限らずプロトン授受は全ての多電子移動反応の活性化障壁を下げる重要な要素であり、フラビンやキノンを用いてバルク電解液の液性とpKaを切り口に電子移動の速度定数がどのように変化するかを解析したいと考えている。 上記のモデル系から得られた電子移動とプロトン授受の相関の法則は、酵素設計においても当てはまると予測され、このことを酵素の遺伝子解析を用いて検証したいと考えている。具体的には解析酵素の範囲を水酸化酵素のみならず、水素とプロトンの可逆変換を行う酵素であるヒドロゲナーゼや活性酸素種を無毒化するSuper Oxide Dismutase、さらには窒素サイクルを担うニトロゲナーゼ、Nitrate Reductaseなどにも広げ、人工触媒・生体酵素の元素戦略を統合的に俯瞰するモデルの提唱を行いたいと考えている。
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Research Products
(1 results)