2016 Fiscal Year Annual Research Report
生体電子プロトン輸送機能に着目した普遍金属元素を用いた水酸化触媒の開発
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15J10450
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大岡 英史 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | プロトン共役電子移動 / 金属酸化数の変化 / 電気化学 / 分光分析 / 速度論制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、酸素発生反応(2H2O -> O2 + 4H+ + 4e-)による水からの電子獲得は、水電解による水素製造や二酸化炭素の還元を支える技術として大いに着目されている。しかし、豊富な3d金属元素(鉄やマンガン等)由来の触媒の多くは塩基性で最も高い活性を示し、中性の水の電解に対する効率は、酸化イリジウムなどの貴金属触媒と比べて低い。本研究では、このpH依存性の違いはプロトンと電子の輸送機構の違いに由来する、という仮説のもと、3d金属と4d/5d貴金属触媒の相違を明らかにするため、既報において最も高い活性を誇る酸化イリジウム触媒の酸素発生メカニズムを電気化学的・分光化学的手法を用いて追跡した。その結果、酸化イリジウムでは酸素原子同士の結合を作るプロセスが律速となることが分かった。酸素原子同士の結合を作るためには、450 nm付近に吸収極大を持つイリジウム5価の中間体が重要となることがその場分光分析により明らかになった。この中間体は別のイリジウム5価に結合した酸素原子のスピン状態が反転することにより生成することが計算化学により示唆された。これらの結果は、酸化イリジウムでは中心金属の酸化数変化が律速とならないことを意味しているが、価数変化が律速とならない反応機構は酸化マンガンや酸化鉄触媒とは対照的である。この価数変化が律速とならないことは3d金属と4d/5d貴金属触媒の大きな相違点であり、そのことに由来して活性の差が生まれていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、人工酸素発生触媒の中で最も高い活性を持つ酸化イリジウム触媒の反応機構を解明することで、より高効率な3d金属触媒を作るための戦略を提示することを目指している。今年度は、酸化イリジウムにおける律速段階が酸素・酸素結合生成であることを明らかにし、そのことを報告した論文が受理された。その続報として、金属中心の酸化数変化のpH依存性や速度定数をもとに、金属中心の価数変化は酸素・酸素結合生成過程に関与していないことを報じた論文が投稿中である。さらに、以上の酸化イリジウムに関する結果と、既存の酸化マンガン・酸化鉄の反応機構の比較を通して、3d金属と4d/5d貴金属の相違について考察を行った総説も査読中である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果により、酸化数の変化の容易さによって人工酸素発生触媒の活性に相違が生まれる、ということが明らかになった。今後は生体内における酸素発生酵素や、他の多電子移動反応(水の還元による水素発生や、二酸化炭素の還元によるエチレンやメタンなどの有用物質生産、等)を検討することで、より普遍的かつ統一的な多電子移動触媒の元素戦略に関するモデルを提唱したいと考えている。
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Research Products
(3 results)