2015 Fiscal Year Annual Research Report
環境ガバナンスの社会学的再検討:「意図せざる結果としての環境保全」の有効性
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15J10735
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
谷川 彩月 名古屋大学, 環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 環境と農業 / 減農薬栽培 / 環境社会学 / 宮城県 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年12月に、本研究の目的に即した調査対象地があらたに発見され、研究計画に大幅な変更が生じたため、研究経費の繰越を申請した。繰越分を用いて、あらたな調査対象地である宮城県登米市への現地調査を行った。具体的には、JAみやぎ登米へのインタビュー調査および参与観察と、JAみやぎ登米管轄域にて、環境保全型農業の1類型である「環境保全米」に取組んでいる農家へのインタビュー調査を行った。 調査の結果、JAみやぎ登米が2003年から環境保全米に着手した背景には、NPO団体「環境保全米ネットワーク」との密接な関わりが存在しているということが明らかとなった。具体的には、JAみやぎ登米第2代目組合長が当該NPOのコアメンバーであったことから、JA単位で環境保全米に取り組もうとする機運が高まった。環境保全米とは当該NPOの登録商標であるが、JAみやぎ登米の重要な販売戦略のひとつでもある。JAみやぎ登米での成功を受けて、2007年からは宮城県内の多数のJAにて環境保全米の生産供給がなされており、JAみやぎ登米とNPOとの協働成立が、環境保全米の全県的な拡大、ひいては宮城県全体の稲作生産による環境負荷の低減を実現させた。以上から、JAみやぎ登米とNPOとの協働成立が地域環境保全に大きく寄与しているということがあきらかとなり、いかにしてJAみやぎ登米とNPOとの協働が成立したのかを解明することが、次年度の研究内容のひとつとなった。 また、農家へのインタビュー調査から、農家はかならずしも環境保全的な価値規範から環境保全米に取組んでいるわけではないということがあきらかとなった。具体的には、経済的メリットという誘因や、地域ぐるみでの活動であることなどが、取り組み動機としてみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
あらたな調査対象地が発見されたことにより、研究計画を少々変更せざるをえなくなったが、これまでの調査対象地よりもさらに研究目的に即した調査対象地が発見できたため、研究計画の骨子はより明確となった。これにより、本研究の理論的枠組みが大きく進展した。また、比較対象として設定できる地域も格段に増えたため、本研究の知見の一般化もしやすくなった。 本研究の理論的枠組みは環境社会学に依拠しているが、調査対象地が稲作地帯の農村であるため、農村社会学や農業社会学の知見の応用も必要とされる。そのため、日本の農村研究に対して包括的な文献調査を行い、おおむねの文献調査は終了した。また、本研究の調査対象は減農薬栽培であるが、同じ低環境負荷農法としては有機農業研究がさかんである。そのため、有機農業研究に対しても包括的な文献調査を行い、こちらも日本国内の文献についてはおおむね把握できた。有機農業研究については海外の文献レビューも行ったが、膨大な数であったため、引き続き来年度も作業を継続することとした。農村社会学や農業社会学の海外レビューについては、来年度の課題とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度まで、本研究は調査方法として質的調査を用いてきた。具体的には、調査対象地の農家に対して環境保全米への取り組み動機をインタビューしてきた。この方法により、農家は多様な動機づけによって環境保全米に取組んでいるということが明らかになった。また、これまでの有機農業研究では環境配慮的な側面に着目するあまり、農業経営的側面は捨象されることが多かったが、本研究では、環境保全が一定程度の正当性を得た現代において、農業経営と環境配慮が統合できる可能性が見えてきている。今後は、質的調査によって得られた知見をもとに質問紙調査を行う予定である。 また、今年度の調査によって調査対象地のJAであるJAみやぎ登米は、NPO環境保全米ネットワークという団体との関係性から、環境保全米を始めるに至ったということが明らかとなった。よって、今後は調査範囲を宮城県登米市に限らず、当該NPOへの調査にも取り組んでいく予定である。
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