2015 Fiscal Year Annual Research Report
ホルモン応答性に着目したシロアリのカースト進化機構の考察:キゴキブリとの比較解析
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15J10817
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
増岡 裕大 富山大学, 理工学教育部, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | カースト分化 / 幼若ホルモン / エクダイソン / 比較トランスクリプトミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、シロアリにおけるカーストの進化機構を生理学及び分子学的な観点から考察することを目的とした。シロアリのカースト分化は主に幼若ホルモン(JH)によって制御されることが知られている。特に、最初に出現した不妊カーストである兵隊への分化は、JH処理によって人為的に誘導することが可能である。一方で、シロアリは不完全変態昆虫であるため、カースト分化は必ず脱皮を伴う。そのため、カースト分化にはJHとともに脱皮ホルモン(エクダイソン)も重要な役割を果たすと予想される。そこでまず、27年度はネバダオオシロアリ(Zootermopsis nevadensis)の兵隊分化時において、これまで不明であったJHシグナリング遺伝子の機能を解析した。その結果、JH受容体遺伝子であるMethoprene torelant(Met)とその補因子であるsteroid receptor cofactor(SRC)が兵隊特異的な形態形成に働くことを発見した。また、兵隊分化におけるエクダイソンの機能を探るため、エクダイソン受容体遺伝子(EcR)の機能解析を行い、兵隊特異的なクチクラの色素沈着と硬化に、エクダイソンシグナルを介したチロシン代謝カスケードの活性化が関わることを示した。さらに、次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析により兵隊分化過程を職蟻脱皮過程と比較し、兵隊分化時に特異的に高発現する遺伝子をリストアップした。そのうち2遺伝子についてノックダウンにより正常な兵隊分化が阻害されることを示した。また、近縁のゴキブリ類への人為的なJHA処理実験からシロアリ・ゴキブリ系統ではキゴキブリとシロアリの共通祖先において、JHによる脱皮促進機能が獲得されたこと示唆する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画では、シロアリのカーストの進化機構に分子学的な観点から迫るため、カースト分化時のホルモンシグナル経路に着目し、姉妹群であるキゴキブリとの比較解析に重きをおいている。27年度は当初予定していた通り、シロアリのカースト分化における、JH,エクダイソンのシグナリング経路の解明に終始した。まず、兵隊分化過程におけるJH、シグナリング遺伝子の機能解析行い、高JH量によって誘導される兵隊分化時は、他の単独性昆虫の幼虫脱皮時(体内JH量が高い状態で生じる)とは異なるシグナル経路によって制御される可能性を提示した。また、エクダイソンの下流遺伝子の機能解析も行い、兵隊特異的な形態形成にエクダイソンシグナルが重要な役割をはたすことが示唆された。さらに、シロアリの自然条件下での兵隊分化過程と職蟻脱皮過程におけるトランスクリプトーム解析が完了し、カースト特異的な発現を示す遺伝子のリストアップが完了し、現在、それらの遺伝子の機能解析を遂行中である。現場では、2遺伝子について兵隊分化に働くことが示唆されている。これは概ね予想通りの結果が得られたといえる。また、キゴキブリを含めた近縁のゴキブリ類におけるJHA誘導実験では、キゴキブリでのみJHA処理によって脱皮が誘導されたことから、キゴキブリとシロアリの共通祖先の時点でJHによる脱皮促進機能が獲得されたことが示唆された。この知見は重要であり、これによりシロアリの進化時にJHの応答性に何らかの改変が生じたという仮説をたてることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度はシロアリのカースト進化に迫る上で鍵となるホルモンの下流シグナルの解明に終始し、シロアリの兵隊分化時に特異的なJHシグナル経路が明らかになった。そのため、キゴキブリの加齢脱皮時におけるJHシグナル経路を解析し、シロアリと比較することにより、シロアリ特異的なJH応答性の実態にアプローチできるはずである。そこで、来年度はキゴキブリにおけるJHシグナル遺伝子の機能解析とともに、キゴキブリの脱皮過程におけるトランスクリプトーム解析により、キゴキブリにおけるJHシグナル経路の全容解明を目指す。そして得られた結果をシロアリのものと照らし合わせることで、シロアリのカースト進化を促したJH応答性の改変の実態にアプローチする。
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Research Products
(5 results)