2015 Fiscal Year Annual Research Report
強磁場下のグラフェンにおけるテラヘルツ非線形光学効果の研究
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15J10830
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
湯本 郷 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 相対論的非線形磁気テラヘルツ応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
単層グラフェン中の電子はその運動エネルギーが結晶運動量に比例し、相対論的粒子である質量ゼロ・ディラック粒子とみなすことができる。単層グラフェンに垂直に磁場を印加すると、通常の二次元電子系における磁場に比例した等間隔のランダウ準位とは異なり、準位間隔が磁場の平方根に比例し、かつ非等間隔なディラック電子系に特徴的なランダウ準位が形成される。また、ランダウ準位間の双極子モーメントは非常に巨大な値を持つため、ランダウ準位間エネルギーに相当するテラヘルツ(THz)帯や中赤外領域における大きな非線形光学効果が予測される。さらに、近年の高強度THzパルス電場に対してはラビ周波数がランダウ準位間隔程度になる非摂動論的な領域に到達でき、固体中における非摂動論領域での相対論的非線形光学効果という新奇な現象の観測が期待される。 そこで、ランダウ準位間遷移に起因する非線形THz応答の観測をめざし、磁場下でのTHzポンプ-THzプローブ分光測定系を立ち上げた。この測定系を用い、強磁場下での単層グラフェンを対象に実験を行った。モノサイクルTHzポンプパルス照射下ではプローブTHzパルスに対するファラデー回転角・楕円率スペクトルの大きさが減少し、ポンプTHzパルスが過ぎ去ると素早く回復する様子が観測され、ポンプTHzパルスによる偏光状態の超高速の非線形応答が観測された。またTHzポンプパルス照射中では、ランダウ準位間遷移による吸収スペクトルの共鳴ピークに対応する周波数で、その吸収がほぼ消失する様子が観測された。さらに、密度行列の運動方程式を数値的に解いたシミュレーションとの比較を行い、実験結果が定性的に再現されることを確かめ、単層グラフェンにおけるランダウ準位間隔の非等間隔性と巨大な双極子モーメントに起因する超高速な非線形THz応答の兆候をとらえることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
強磁場下の単層グラフェンにおける非線形テラヘルツ(THz)応答の観測を目指し、磁場下でのTHzポンプ-THzプローブ分光を行うための測定系を立ち上げ、実際に4H-SiC(0001)基板上にエピタキシャル成長した単層グラフェンを対象に強磁場下でのTHzポンプ-THzプローブ分光実験を行うことができた。測定系に関しては、ポンプ・プローブ実験ではプローブ光のみを検出するためにポンプ光を試料透過後に除去する必要があるが、本研究ではポンプTHz電場によるプローブTHz電場の偏光回転の変化を測定する必要があり、従来行われているワイヤーグリッド偏光子を用いたポンプTHz電場を除去する手法を用いることができない。そこで、穴あきのアルミ板を用いることによって空間的にプローブ・ポンプTHz波を分離することで、ポンプTHz波の除去を可能にした。 また、強磁場下の単層グラフェンにおいて、モノサイクルTHzポンプパルス照射下では透過プローブTHz電場の偏光回転が抑制され、ポンプTHzパルスが過ぎ去ると素早く回復するという偏光状態の超高速な変化を観測することができた。さらに、実験結果がランダウ準位間の巨大な双極子モーメントと単層グラフェンにおけるランダウ準位間隔の非等間隔性に起因することを理解するために、回転波近似を用いずに密度行列の運動方程式を数値的に解くことにより得たシミュレーション結果と実験結果との比較を行い、実験結果を定性的に再現することに成功した。 強磁場中の時間領域THzポンプ・プローブ分光というまだ世界に例のない実験手法を開発できたこと、さらに予想外に大きな非線形効果を観測できたことから、期待した以上に研究が進展したと判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、強磁場下での単層グラフェンにおけるTHzポンプ-THzプローブ分光測定によって、モノサイクルTHzポンプパルス照射下では透過プローブTHz電場の偏光回転が抑制され、ポンプTHzパルスが過ぎ去ると素早く回復するという偏光状態の超高速な変化の観測に成功している。しかし、この変化はポンプTHzパルス波に完全には追従せず、ポンプTHzパルスが過ぎ去ったあとの偏光状態の回復には有限の時間がかかる。これはポンプTHzパルスによってキャリアの実励起が起こり、それらの緩和に有限の時間がかかるためだと考えられる。ランダウ量子化したグラフェンにおけるキャリアダイナミクスにはまだ未解明な点が多く、この緩和機構を明らかにすることは、ポンプTHz電場による非線形THz応答をより詳細に理解するために必要であり、さらにランダウ準位における反転分布を利用するランダウ準位レーザーの実現にとっても重要である。そこで、近赤外ポンプ-THzプローブ分光を新たに行い、THzポンプ-THzプローブ分光での結果と比較することによって緩和機構のより詳細な理解を目指す。一方、高強度モノサイクルTHzパルス照射下では、単層グラフェンにおけるランダウ準位間隔の非等間隔性と巨大な双極子モーメントによって高次の非線形光学過程を介して高次高調波が高効率で発生すると考えられる。これらを観測することができれば、THz電場下でのコヒーレント現象に関するより詳細な知見が得られると期待でき、さらに磁場の制御により波長可変な高効率の高次高調波発生素子としての応用にもつながると考えられるため、高強度THzパルスを用いた高次高調波の観測を目指す。
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Research Products
(3 results)