2015 Fiscal Year Annual Research Report
「風土」及びmilieu概念による環境倫理学の基礎付け―和辻、ベルクを手掛かりに
Project/Area Number |
15J10833
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
犬塚 悠 東京大学, 学際情報学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 環境倫理学 / 環境哲学 / 和辻哲郎 / 風土 / リズム / 技術 / 近代日本哲学 / 京都学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、人間対自然という対立図式に代わる新たな環境倫理学の理論形成である。その手掛かりとして、近年国内外で着目されている和辻哲郎の思想、そして和辻の先行研究として重要なオギュスタン・ベルクの思想を扱う。27年度は、計画通り和辻の感受論を手掛かりに彼の環境論の特徴を考察した。その結果、主に次の三点、(1)和辻における人間・環境複合体論の特徴としての反復性・リズム、(2)和辻における人間・環境複合体の反復性と技術との関係、(3)和辻における人間・環境複合体の反復性と間柄・行為的連関との関係が見出された。 (1)に関しては、日本の環境思想を主題とした英文書籍の一章分として論文の掲載が予定されている。その論文では和辻の環境論と近年の環境倫理学、ベルクのmilieu論との比較も行った。(2)に関しては、5月にアイスランド大学で開催された比較哲学国際学会の年次大会にて口頭発表を行った。その内容は日本の倫理学と技術を主題とした英文書籍の一章分として論文の掲載が予定されている。(3)に関しては、12月にバルセロナのポンペウ・ファブラ大学で開催された日本哲学国際学会の年次大会にて口頭発表を行った。現在論文査読中である。 以上の研究の進展は、4月から9月までパリのフランス国立社会科学高等研究院で行ったベルク教授、ルチアノ・ボイ准教授らの下での在外研究によるものが大きい。(3)に関しては、9月の帰国後に行った法政大学市谷図書館所蔵の和辻哲郎個人文庫の調査から重要な資料を得ることができた。法政大学では3月に国際日本学研究所の環境・自然研究会にて上記3点をまとめた口頭発表を行った。また上記の3点に並行して、和辻における国民性論の特徴も一部見出された。これは9月にロンドンのSOASで開催された英国日本研究協会の年次大会にて口頭発表を行った。その後進めている和辻の『風土』の具体例の分析とあわせて、現在論文を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、環境倫理学と近代日本哲学研究の両者において最先端の研究となることを目指している。それぞれの観点において成果報告を国内外にて行い、論文の出版が予定されていること、さらに同研究分野の国内外研究者との共同研究に向けてのネットワークが形成されていることから、研究は順調に進展しているものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度も、近年の環境倫理学の状況と照らし合わせながら、和辻の思想における人間・環境論を分析する。前年度において明らかにされた「反復性」という観点に加え、前年度の研究によって和辻の環境論における重要性が明らかになりつつある「表現」という概念に着目していく。さらに西洋における空間・環境についての思想史、近年の倫理学における近代倫理学の批判の潮流を調査し、哲学・倫理学一般における和辻の思想の今日的意義を明らかにする。法政大学所蔵の和辻哲郎個人文庫の調査を引き続き進め、加えて和辻の資料を保存する姫路文学館を調査する。 6月には南山宗教文化研究所にて当研究所の研究員らと和辻哲郎の思想をめぐる国際コンファレンスを開催し、自身も和辻の「表現」概念について口頭発表を行う予定である。また前年度に引き続き、欧州を基盤とした日本哲学の国際学会European Network of Japanese Philosophyの年次大会(12月、ブリュッセル自由大学)にて口頭発表を行う予定である。以上の研究活動において得られた研究成果を、博士論文としてまとめる。
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Research Products
(6 results)