2015 Fiscal Year Annual Research Report
彗星核に含まれる塵の熱履歴と分子の同位体濃集から探る原始太陽系円盤の物理化学
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15J10864
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
新中 善晴 国立天文台, 天文情報センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 彗星 / オルソ/パラ存在量比 / 同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
彗星に含まれるアンモニアおよび水分子のオルソ/パラ存在量比(OPR)は、観測的に、複数の同一彗星において異なる日心距離でのOPRは誤差内で一致すること、大多数の彗星の水分子のOPRは統計重率比ではなく比較的狭い範囲に集まることから、分子形成時の温度の指標として用いられてきた。しかし最近の実験的研究では、氷やポリマー中での短時間でのオルソーパラ変換、氷から昇華する際のOPRは統計重率比となる、などの結果が報告されている。彗星分子は放出されるまでは氷として存在するため、もし氷中で容易に変換が起こる場合、OPRは彗星核形成以前の情報を保持しない可能性が高い。また、観測する彗星コマ中の気相の水分子は氷からの昇華により生成するためOPRは統計重率比になると予想される。これらは、異なる日心距離やガスの放出率においても、彗星コマ中でOPRが似た値に変換したことを示唆している。そこで私は、様々な衝突や化学反応を考量し、様々な彗星コマ環境における水分子のOPRの変化をモデル化した。その結果、ダイマーなどの多量体を経由することでOPRが一様になる物理環境が存在する可能性を示した。この結果は従来考えられてきたOPRの解釈が正しくないことを示唆する。 そこで現在は、彗星核や彗星コマ中での変換が困難なため彗星核形成以前の物理環境を保持する可能性が高いアンモニア分子の窒素同位体比に着目し、彗星分子の形成環境の解明を目指している。アンモニアは発光強度が弱く同位体比の高精度の決定は困難なため、我々は彗星コマ中でのアンモニア分子の光解離生成物であるNH2を用いる手法を開発した。この手法を用いて、これまですばる望遠鏡とVLTで観測された比較的明るい17つの彗星について窒素同位体比を決定した結果、力学的起源などによらず狭い範囲に集まることから、アンモニア分子は均一な環境で形成された可能性が高いことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
彗星分子のオルソ/パラ存在量比(OPR)については、観測的に彗星核形成以前の情報を保持していると考えられてきたが、最近の実験室での研究により、彗星核形成以前の情報を保持しない可能性が指摘されてきている。私は様々な衝突や化学反応を考量し、様々な彗星コマ環境における水分子のOPRの変化についてモデル化した。その結果、ダイマーなどの多量体を経由することでOPRが一様になる物理環境が存在する可能性を示した。このことは、従来考えられてきたOPRの解釈が正しくないことを示唆する。 アンモニア分子の窒素同位体比については、彗星コマ中でのアンモニア分子の光解離生成物であるNH2から推定する手法確立した。この手法を用いて、これまでにすばる望遠鏡とVLTで観測されている比較的明るい17つの彗星について窒素同位体比を決定した。その結果、アンモニア分子についてもCNと同様に太陽に比べて15Nが約3倍濃集していること、力学的起源などによらず多様性が小さいことを明らかにした。このことは、彗星に含まれるアンモニア分子が比較的均一な環境下で形成された可能性が高いことを示唆する。 塵成分については、すばる望遠鏡ですでに得られている高S/N比の彗星の中間赤外線分光スペクトルのデータ解析手法については確立し、現在は Subaru望遠鏡に搭載されている中間赤外線観測データの解析パイプラインを開発している。我々が開発したパイプラインを用いることで、自動的かつ短時間に解析作業を行うことができるようになる。 また、現存する彗星塵の熱輻射スペクトルのモデル化においては、個々の鉱物が別々の粒子として存在すると仮定されているが、探査機による彗星ダストのサンプルリターンでは、単一粒子内に結晶質とアモルファスの両方が混在した鉱物が検出されている。このことから、我々のグループで開発した塵粒子の熱輻射モデルを改良し、異なる成分の複合粒子を扱える熱輻射モデルを構築している。
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Strategy for Future Research Activity |
彗星の揮発性成分については、アンモニア分子の窒素同位体比、水分子の D/H 比、アンモニア分子と水分子の OPR のサンプルを継続的に増やしていく。これらを継続的に実施していくためには彗星の高精度なデータが必要となるが、特に、アンモニア分子の窒素同位体比については木星族短周期彗星のサンプルが3例しかしかないため統計的精度を高めるためにサンプルの増加を目指す。具体的には、2017年2月頃に41P彗星および46P彗星の2つの木星族短周期彗星が6等級以上と非常に明るくなる予報であることに加え、地上からの観測条件が非常に良いため、これら2つの彗星に対して大型望遠鏡での観測時間を確保するため、様々な望遠鏡への観測の提案書を提出する。
彗星の難揮発性成分である塵については、現在開発している異なる成分の複合粒子を扱える熱輻射モデルを完成させる。このモデルを用いて、我々の保持する複数の彗星についてシリケイトの結晶質/アモルファス比を再評価する。結晶質シリケイトは星間空間にはほとんど存在しない。そのため、彗星に含まれる結晶質シリケイトは、元は星間空間でアモルファス状態であったものが原始太陽系円盤の太陽近傍でアニーリングされて結晶化し、その後に太陽系の低温度領域まで輸送されることで彗星に取り込まれたと考えられている。このことから、結晶質ダストの存在量比から、彗星ごとの形成領域に制限を加える。 これらの研究成果について、研究会で発表するだけでなく積極的に論文化する。
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Research Products
(5 results)