2016 Fiscal Year Annual Research Report
彗星核に含まれる塵の熱履歴と分子の同位体濃集から探る原始太陽系円盤の物理化学
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15J10864
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Research Institution | National Astronomical Observatory of Japan |
Principal Investigator |
新中 善晴 国立天文台, 天文情報センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 彗星 / 窒素同位体比 / 超小型深宇宙探査機 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、彗星分子に含まれる窒素原子の同位体比が太陽系の元となった分子雲や原始惑星系円盤における化学進化という観点から注目されてきており、CN分子に関しては従来近紫外波長域に見られるB-Xバンドが多く観測されてきた。しかし、同バンドは近紫外線波長域に近く地球大気の減光の影響を受けやすいため、太陽に接近することで明るくなる彗星においては観測条件が悪いことが多い。またコマ中での彗星ダストによる減光もあり、S/Nの良いスペクトルを得るために不利となる。そこで本研究では、これらの減光の影響が少ない近赤外線域に見られるCN分子のA-Xバンドを用いる方法の確立を目指した。まず、太陽光励起によるCN分子のA-Xバンド輝線の蛍光発光モデルを新たに構築した。このモデルを、2013年11月に神山天文台の荒木望遠鏡に搭載された近赤外線高分散分光器WINEREDで取得したC/2013 R1 (Lovejoy) 彗星のスペクトルに適用した結果、同位体比の導出について先行研究で得られている値と矛盾しない結果が得られた。 この他に、我々は超小型深宇宙探査機プロキオンに搭載されたLyα撮像望遠鏡(LAICA)を用いて67P/Churyumov-Gerasimenko彗星の水素原子コマ全体の観測から、彗星核からの水分子の放出率の絶対量を決定した。同彗星は、欧州宇宙機関が実施したロゼッタ計画のターゲット天体であり、近日点を含む2年以上にわたり水分子などを含む多くの分子について彗星核近傍から精密な観測が実施された。しかしロゼッタ探査機の観測結果から推定された近日点付近の水分子の生成率は、用いるモデルによって10倍程度の違いが生じることが報告されていた。同彗星は地球からの観測条件が悪く、地上から水分子の観測は成功しなかったこともあり、我々によるやや離れた位置からの彗星全体の観測により得られた全量観測の結果がモデルの検証に非常に有用となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
揮発性成分については、彗星CN分子のA-Xバンドを用いる窒素および炭素同位体比の新たな推定方法を確立した。従来彗星においてCN分子の元素同位体比は、紫外線域に見られるB-Xバンドが多く観測されてきた。しかし、同じバンドは近紫外線波長域に近く地球大気の影響を受けやすく、コマ中での彗星ダストによる減光もあり、その意味でもS/Nの良いスペクトルを得るために不利となる。そこで本研究では、これらの減光の影響が少ない近赤外線波長において、彗星コマ中で発光するCN 分子のA-Xバンドを用いる方法の確立を目指した。まず、観測と比較可能な彗星CN分子のA-Xバンド輝線モデルが存在しないため、太陽光励起による蛍光発光モデルを新たに構築した。2013 年 11 月に京都産業大学神山天文台に設置されていた近赤外線高分散分光器 WINERED を用いてC/2013 R1 (Lovejoy)彗星を観測し、我々の開発したモデルを適用した結果、先行研究で得られている値と矛盾しないことが確認できた。 難揮発性成分については、彗星の中間赤外線領域に見られるシリケイト鉱物の熱輻射スペクトルを再現する熱輻射モデルを完成させた。このモデルを彗星の中間赤外線に見られるシリケイト熱輻射スペクトルに適用することで、彗星の結晶質シリケイトの存在量比を推定する手法を確立した。さらに得られた結晶質シリケイトの存在量比から、彗星ごとに原始太陽系円盤中での形成領域の推定方法を確立しつつある。 この他に、我々は超小型深宇宙探査機プロキオンに搭載されたLyα撮像望遠鏡(LAICA)を用いて67P/Churyumov-Gerasimenko彗星の水素原子コマ全体の観測から、彗星核からの水分子の放出率の絶対量を決定した。ロゼッタ探査機の観測結果から推定された近日点付近の水分子の生成率は、用いるコマモデルによって10倍程度の違いが生じることが報告されており、我々の観測により得られた全量観測の結果がモデルの検証に非常に有用となった。
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Strategy for Future Research Activity |
彗星の揮発異性成分については、NH3分子とCN分子の窒素同位体比、H2O分子の水素同位体比、NH3分子とH2O分子の原子核スピン異性体比のサンプルを継続的に増やしていく。これらを行うためには彗星の高精度な観測データが必要となるため、すばる望遠鏡、VLT望遠鏡などの大型望遠鏡での観測時間を確保するため、これらの望遠鏡への観測提案書を提出する。彗星の難揮発性成分である塵については、我々が開発した熱輻射モデルをこれまで観測されている彗星のアーカイブデータに適用することで、彗星の形成環境を系統的に明らかにすることを目指す。揮発性成分と難揮発性成分から独立に得られた物理量を組み合わせることで、彗星の形成環境の解明を目指す。 これらの研究成果について、積極的に研究会で発表するとともに論文化を行う。
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Remarks |
2017年1月24日に、雑誌論文の4番目の論文の成果について所属機関である国立天文台からプレスリリースを行った。その結果、100を超えるWEBメディアに掲載された。
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Research Products
(13 results)
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[Journal Article] Imaging observations of the hydrogen coma of comet 67P/Churyumov-Gerasimenko in 2015 September by the PROCYON/LAICA2017
Author(s)
Y. Shinnaka, N. Fougere, H. Kawakita, S. Kameda, M. R. Combi, S. Ikezawa, A. Seki, M. Kuwabara, M. Sato, M. Taguchi, I. Yoshikawa
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Journal Title
The Astronomical Journal
Volume: 153
Pages: 76
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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