2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J10905
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 佑介 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 統計モデル / オオミズナギドリ / ナビゲーション / 風 / バイオロギング |
Outline of Annual Research Achievements |
8月15日から9月30日まで岩手県大槌町にてフィールドワークを行い、船越大島で繁殖するオオミズナギドリにデータロガーを装着した。装着した主なロガーはGPSロガーで収集したデータは下記の新手法によって解析した。 鳥が風に晒されて移動する際、その対地速度ベクトル(地面に対する鳥の速度ベクトル)は対気速度ベクトル(鳥の空気に対する速度ベクトル)と風ベクトルの合成ベクトルである。これら3つのベクトルを知ることができれば鳥が風による影響を受けながら目的地を目指して移動している際に、どのような意思決定をしているかを知ることができる(例えば横風に流される分を考慮に入れて対気速度ベクトルの向きを調整する、あるいは風が変化しても対気速度ベクトルを調整せず風に流されるにまかせる、など)。従来、鳥の対気速度ベクトルや風ベクトルを直生計測することは困難であったが、採用者はGPS経路データから計算した対地速度ベクトルの情報から、鳥の対気速度ベクトル(鳥の空気に対する速度ベクトル)と鳥が晒された風向風速を推定する新しい統計手法を作成した。 本手法をフィールドワークで得たオオミズナギドリのGPS経路に適用したところ、鳥の経路から推定した風は、気象庁が公開している風のシミュレーションデータ(3時間おきの予測データで鳥から推定される風より時空間解像度は荒い)と相関しており、本手法は正しく機能したと考えられる。また、推定結果から帰巣中のオオミズナギドリは、陸から数10から200km離れた海上であっても対気速度ベクトルの向きを調整し、横風によって進路が島方向からずれるのを防いでいたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
フィールドワークでは20羽のオオミズナギドリにGPSロガーを装着し、育雛期の採餌旅行の経路データの収集に成功した。 フィールドワークで収集した経路データの解析から、経路データのみから鳥の対気速度ベクトルと鳥が受けた風ベクトルを推定可能にする手法を確立した。当初の研究計画では、オオミズナギドリがコロニーから餌場へ向かう際の意思決定機構の解明を目指していたが、本手法を餌場からコロニーへ帰巣する経路データに適用したところ、鳥が横風を打ち消すように体軸ベクトルの方向を調節し、コロニーの方向へ進んでいたという思わぬ発見があった。風環境は鳥が餌場やコロニーなど目的地へ向かう際の意思決定に特に影響を与える要因と考えられ、この手法は海鳥の意思決定を紐解く上で非常に有効なツールとなることが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今回開発した手法は、経路データのみから鳥の体軸方向と鳥がうけた風ベクトルを推定するものである。手法の推定精度の検証は、我々の方法で推定した風ベクトルを、気象庁が発表している大気モデルのシミュレーションによる予測値の比較で行った。しかし鳥で推定した風は気象庁のデータよりも時間解像度が高く検証にはより高精度の風データがあると望ましい。また、鳥の体軸方向を直接計測し、我々の手法で推定した体軸方向と比較できれはより推定精度の検証として信頼できるものになると期待される。そのため、オオミズナギドリをコロニーのある島から100km離れた海上まで海洋観測船で運び、鳥の位置と体軸方向を同時に計測できるロガー(電池寿命約10時間)を装着し放鳥。その後、船で島まで向かいながら鳥が飛んでいた現場の風を計測することで、現場の風と鳥の体軸ベクトルという、手法の検証に必要なデータを収集することを計画している。 オオミズナギドリの採餌場所はコロニーからの方向、距離に大きなばらつきがある。このばらつきの原因を解明するのが本研究の最終目標であった。これまでの解析から、これらのばらつきが風環境に対するオオミズナギドリの応答によってもたらされるのではないかという仮説が生まれた。この仮説を今回開発した新手法をコロニーから餌場へ向かうオオミズナギドリの経路に適用することで明らかにしようと考えている。 また、餌場からコロニーへ帰巣する際の意思決定も、目印の乏しい海上で風にさらされながらの応答という興味深い問題が潜んでいることがわかった。オオミズナギドリの繁殖する船越大島は陸から数km離れている程度なのでオオミズナギドリの帰巣は陸の影響を受けている可能性がある。今後、ワタリアホウドリなど陸から離れた島で繁殖する鳥の経路に本手法を適用し、彼らの帰巣中の意思決定がオオミズナギドリと異なってくるのか比較をしたいと考えている。
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Research Products
(2 results)