2015 Fiscal Year Annual Research Report
現生動物の解剖学的解析に基づく化石爬虫類の視覚機能及び潜水深度の復元
Project/Area Number |
15J10919
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山下 桃 東京大学, 理学(系), 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | トカゲ類 / 鞏膜輪 / 相関関係 / 視覚機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、現生のトカゲ類を中心とした爬虫類を用いて眼に関係する硬組織と軟組織の相関関係を定量化する事を目的としている。さらに硬組織における水生適応の影響の有無を明らかにし、硬組織しか残らない化石種においてこの関係性から眼の軟組織の大きさを復元、さらにその生物の視覚機能を推定し潜水行動の理解につなげることが目的である。 まず、硬組織と軟組織の相関関係について、11属13種のトカゲ類における眼の軟組織(水晶体)と硬組織(鞏膜輪)の計測を行った。鞏膜輪とは、眼球の内部にあるリング状の骨質の構造である。水晶体の径と鞏膜輪の内側の開口部の径を比較したところ、これら二つの組織は強い相関関係を示し、鞏膜輪の内径に対して水晶体の径が劣勢長を示すことがわかった。さらに、水生適応が鞏膜輪の形態に影響を及ぼすかどうか調べるため、ウミガメ類とリクガメ類の鞏膜輪の形態を比較したところ、鞏膜輪の形態に違いは見られなかった。 鳥類とトカゲ類、カメ類は、眼の構造が類似していることが知られている。これまでの研究で鳥類の眼の各組織の強い相関関係や鞏膜輪の形態に水生適応の影響があると示され、トカゲ類においても同様の傾向があると考えられていたが、トカゲ類の眼の内部の組織を含めた各組織の相関関係や鞏膜輪と水生適応の関係は明らかになっていなかった。本研究の結果により、トカゲ類においても軟組織(水晶体)と硬組織(鞏膜輪)に強い相関関係があるものの、等成長である鳥類とは異なり、劣勢長を示すことが明らかになった。さらに現在唯一完全な水生適応を果たす爬虫類であるカメ類においては、鞏膜輪の形態に水生適応の影響がない可能性が示された。これらの結果から、トカゲ類に属するモササウルス類をはじめ化石海生爬虫類の眼の復元をより近い現生種との比較によって行うことができるようになり、それらの生態のより深い理解につなげられると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでは、系統学的により広範囲にわたる分類群のトカゲ類の標本を入手すること、またCTスキャンによるデジタルデータを用いた計測を行う手法を確立することを中心に行ってきた。さらに、新鮮標本を用いて固定や染色において各組織の収縮がどのように起こるのかを明らかにしてきた。 標本の入手に関しては、動物園からの譲渡や博物館からの借用により、系統学的・生態学的に幅広い分類群の標本を入手することができた。また、CTスキャンを用いた軟組織の計測は、まだ研究例が少なく、染色方法や撮影方法などがまだ確立されていないが、本研究において、トカゲ類の頭部や眼球の染色・撮影方法を確立することができ、標本を破壊することなく各組織の計測を行うことができるようになった。これまでに、11属13種のトカゲ類のデジタルデータが得られており、これらのデータから水晶体や鞏膜輪の内径以外の各組織の計測を進めるとともに、同様の方法でさらに多くの標本のデータが得られると考えられる。さらに固定や染色の各段階において起こる収縮率をもとに、デジタルデータから得られた計測値から各組織の実際の大きさを算出することができ、より詳細な比較を行うことができるようになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画として、トカゲ類の眼における軟組織と硬組織の相関関係を明らかにするため、さらに多くの分類群においてデジタルデータによる計測を進めていく。また、これまでは軟組織は水晶体のみ、硬組織は鞏膜輪の開口部の径のみを計測していたが、さらに眼球の径や入射瞳の径(軟組織)、鞏膜輪の外側の径・眼窩の径・頭蓋骨の幅(硬組織)など、計測箇所を増やして相関関係を調べていく。合わせて、より数多くの分類群の新鮮標本を用いて、固定・染色の各段階の収縮率が分類群によって差が生じるかを明らかにしていく。 水生適応による鞏膜輪の形態への影響の有無について、これまではウミガメ類、リクガメ類のそれぞれ1種ずつの比較にとどまっているため、陸生、海生、淡水生など様々な生息域を含め、また系統学的にも幅広い分類群を用いて鞏膜輪の比較を行う。その上で鞏膜輪の形態における系統的制約と環境要因の影響について明らかにしていく。 さらに、魚竜類やモササウルス類などの化石海生爬虫類の鞏膜輪や頭蓋骨の計測を行い、本研究で明らかになったトカゲ類の眼の硬組織と軟組織の関係性から、化石種の眼の軟組織の大きさ及び視覚機能を推定する。推定された視覚機能から海洋中の光の減少率をもとに潜水深度を明らかにしていく。合わせて鞏膜輪の形態をもとに水生適応の程度を推定し、潜水深度との適合性を明らかにする。
|
Research Products
(1 results)