2015 Fiscal Year Annual Research Report
ジャン・ジュネの『恋する虜』における「放浪」概念の現代文学における射程
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15J11000
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田村 哲也 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 喪(deuil) / 母と息子のカップルの形象 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、申請書に記載した計画を一部変更して、研究を遂行した。というのも、ジャン・ジュネの『恋する虜』の「放浪」概念について、申請書に記載したようにこれをもっぱら思想史のアプローチによって分析することには、この概念の文学における価値を捉え損ね、文学作品の読解から第二次大戦以降の思潮を見直すという本研究の意義が失われてしまう恐れがあると判断したためである。以上のような判断を踏まえて、計画の変更による研究の遅滞を避けるため、年次計画の通りエマニュエル・レヴィナスとジャック・デリダのエドモン・ジャベスに関するテクストを読み進めつつも、『恋する虜』の精読、このテクストの「放浪」概念に関する論点の再検討とこの再検討に資する文献の精読を中心に研究を遂行した。 このような初年度の研究によって、まず、『恋する虜』の「放浪」の概念は喪の問題とつながっているということが明らかになった。この分析では、精神分析の理論、具体的にはジークムント・フロイトの『喪とメランコリー』やこれを継承したニコラ・アブラハムとマリア・トロークの『表皮と核』における議論を参照した。さらに、『恋する虜』における母と息子のカップルの形象の意味作用を明らかにした。 研究発表については、成果の一部を「ジャン・ジュネ『恋する虜』における自身のエクリチュールをめぐる省察の分析(1)―― 死者の記憶をめぐるジレンマとその超克の試みについて ――」という題名の論文にまとめ、これを『仏語仏文学研究』第48号(東京大学仏語仏文学研究会、2016年1月28日発行)に寄稿した。くわえて、成果の他の一部を「ジャン・ジュネの後期作品におけるエクリチュールと生の関係について」という題目の研究報告にまとめ、これを2015年度関東支部大会(日本フランス語フランス文学会、上智大学、2016年3月12日)にて口頭で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、まず、当初の計画のように思想史のアプローチによって研究を進めると、ジュネの「放浪」概念の文学における価値を捉え損ね、文学作品の読解から第二次大戦以降の思潮を見直すという本研究の意義が失われてしまう恐れがあるということに気付き、計画の欠陥の修正を図った。その結果、『恋する虜』の再度の精読をつうじて、「放浪」概念と喪のつながりという新しい論点を発見することで、この欠陥は早期に克服され、計画の時点では予想もしなかった方向への展開の萌芽を見出すことに成功した。くわえて、申請書に記載した計画に従って、エマニュエル・レヴィナスとジャック・デリダのエドモン・ジャベスに関するテクストを読み進めたため、計画の大幅な遅滞を避けることができた。研究発表については、申請書の時点では初年度に研究発表を行うことは予定していなかったにもかかわらず、査読論文を一本投稿し、学会で研究報告を一度実施し、積極的に研究成果を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、前年度の成果を踏まえたうえで年次計画に従い、研究を進める。すなわち、ジュネの『恋する虜』以前の作品における政治の表象のありかたを分析すると同時に、「放浪」概念の政治性を検討する予定である。まず、平成27年度の研究によって明らかになったジュネの「放浪」と喪のつながりという問題を彼の他の作品に敷衍して論じる。具体的には、『葬儀』という小説や『...という奇妙な語』というエセーを精読・分析する。くわえて、『恋する虜』以外の作品における二つの形象の特異な結びつきについて、とりわけ政治表象に関するものを重点的に分析する。具体的には、『バルコン』という戯曲や『判決』というエセーを精読・分析する。このようなテクストの読解・分析にくわえて、平成27年度には行うことができなかったIMECでの資料調査も積極的に行いたい。論文執筆・学会発表については、より国際的な研究発表、つまり、フランス語での論文執筆、あるいはフランス語による口頭発表を行うことも予定している。
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Research Products
(2 results)