2015 Fiscal Year Annual Research Report
記憶と忘却の映画的身体―占領期/ポスト占領期におけるスター俳優と観客の視覚文化史
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15J11024
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北村 匡平 東京大学, 情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 戦後日本 / 大衆文化 / 映画スター / ファン雑誌 / メディア / 検閲 / GHQ / アメリカナイゼーション |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、東京大学で2015年5月29日に開催された3rd Annual University of Tokyo-GSII Graduate Student Conferenceにて、戦後日本の大衆の欲望を体現した京マチ子とそのスターイメージをめぐる言説分析を行い、その報告をもとにした論文はマス・コミュニケーション学会の学会誌『マス・コミュニケーション研究』88号に掲載された(2016年1月刊行)。
また2015年10月24日に中国の清華大学で行われたTshinghua-Todai The Great Wall Forum-Beyond the wallにおいて、戦前・戦後の李香蘭の身体やイメージが、いかに国策映画やハリウッド映画の中で用いられているかを明らかにし、2015年12月5日の公開シンポジウム「《交響する》現代日本における映画と文学」の報告では、森鴎外の『雁』の二度の映画化にともない、明治時代の女性像が、戦後、映像作家にいかに視覚化され、高峰秀子と若尾文子にどのように演じられたのかを比較検討した。『ユリイカ』(2016年2月号 特集*原節子と〈昭和〉の風景)では、戦中の軍国主義から占領期の民主主義へと規範的女性イメージが転換する中でなぜ原節子が連続的にそのイメージを提示することができたのかを、ファン雑誌におけるパーソナリティーと映画のイメージとの相関から解明することを試みた。
2016年3月30日にアメリカのアトランタで開催されたSociety for Cinema and Media Studiesでは、日本映画の海外進出とともにナショナル・アイデンティティの代理的存在として機能した京マチ子を取り巻く日本と欧米の言説を比較し、映画衣裳や日本的な色彩が西洋の視覚にいかに作用したかを分析した。資料調査に関しては、アメリカ国立公文書館や国立国会図書館を中心に実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、まず国立国会図書館の憲政資料室でGHQの検閲資料の調査を行った。主に映画雑誌を中心として資料調査を行っているが、資料の数が膨大なので、平成28、29年度も継続して調査を実施する予定である。また、日本国内にあるファン雑誌・同人誌などに関しては、地方への出張も必要であり出張費用や日程の問題と、アメリカの学会で発表できる機会を得たため、平成27年度の資料調査はアメリカでの調査を中心に行った。
アメリカの国立公文書館での調査では、主にCIE映画、CIE映画に関する資料、国務省や戦時情報局、GHQ/SCAPの中で、日本の占領政策や映画政策、あるいは社会調査に関わる資料を調査し、日本では見ることができない貴重な資料も多く発見することができた。また、アメリカでの調査の際に、メリーランド大学のプランゲ文庫の予備調査も実施し、次年度からの調査の筋道を明確にすることができた。
国外での調査と国際学会での研究成果の発表は、平成28年度を予定していたが、前倒しで行うことができ予定しているよりも順調に進展しているといえる。また、中国での国際会議やアメリカでの学会発表、あるいは国内でも国際学会や国際的な参加者が集まる場で研究成果の発表を行うことによって、国際的な研究者のネットワークを構築することができた。本研究が対象としている占領期の映画女優に関する研究成果は、論文として学会誌と雑誌に掲載することができたので概ね達成できたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、国内の調査では、国立国会図書館での調査を継続するが、所蔵していないものも多くあるので適宜フィルムセンターや映画会社に資料を調査に行く予定である。また、平成28年度は、地方にしか所蔵されていない映画雑誌の調査も進めていく。現在、国内で予定しているのは、福岡県にある松永文庫と山口県にある田中絹代ぶんか館の所蔵資料と市民団体「木暮実千代の会」の関係者へのアクセスである。
大学の長期休暇の期間はアメリカへの調査を計画している。メリーランド大学のプランゲ文庫の予備調査の結果、平成28年度は、しばらくデジタルアーカイヴ化される予定のない資料を中心に調査を実施したほうがよいと判断したため、夏の調査ではプランゲ文庫を中心にし、アメリカ国立公文書館でも引き続き、映画や占領に関係する公文書を調査する。
研究論文に関しては、これまで集めた資料を分析し論文化して、所属学会に投稿する。また、国際学会への投稿も予定しているため、英語論文も執筆し、今年度末を目標に書き上げる。発表に関しては、国内外の研究者と連携をとり、研究会での発表やシンポジウムの参加も予定している。
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Research Products
(6 results)