2015 Fiscal Year Annual Research Report
英語の構文選択メカニズム:構文交替へのコーパス基盤的アプローチと認知言語学の接点
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15J11687
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野中 大輔 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 構文交替 / 認知言語学 / コーパス / 構文文法 / 場所格交替 / 身体部位所有者上昇交替 |
Outline of Annual Research Achievements |
場所格交替(1)、身体部位所有者上昇交替(2)を中心に、類義の構文のうちどれが選択されるのかという問題を扱い、それと関連するテーマで共同研究やワークショップも行った(3)。 1. 場所格交替(a. John loaded hay onto the truck / b. John loaded the truck with hay)についての論文が『東京大学言語学論集』に掲載された。bの構文が形容詞的受身文と組み合わさると、一時的な状態にとどまらず、恒常的な属性を表現することがある点、感情的な意味合いを持ちやすい点を明らかにした。また、場所格交替動詞がレシピの文脈に多く見られることに注目し、料理本をもとにレシピ・コーパスを自作し、場所格交替の二つの構文の使用傾向を日本英語学会で発表した。レシピというレジスターが構文の選択に密接に関わっていることを論じた。 2. 身体部位所有者上昇交替(c. John hit Bill’s head / d. John hit Bill on the head)を扱う一環として、身体部位所有者上昇構文(dの構文)について発表した(成蹊大学アジア太平洋研究センター・研究プロジェクト「認知言語学の新領域開拓研究」)。これまでの研究では、この構文における前置詞の役割が十分に明らかにされていなかった。本発表では大規模コーパスでこの構文に用いられる前置詞on/inを調査し、前置詞の分布と力の働きかけの関係を論じた。 3. レシピと構文に関する調査の一つとして、複合変化結果構文と複数の節を用いる表現の使用傾向を分析し、その成果を共同研究として発表した。また、構文選択に関連する研究として、動詞接頭辞over-/under-で見られる反義関係に関する共同研究を行い、使役現象をめぐるワークショップの一部として動詞laughに見られる多義性について発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
場所格交替については、形容詞的受身文の事例を扱うことで、二つの構文がほかにどの構文と組み合わさるかという点で異なることが明らかとなった。感情的な意味、話し手が事態をどのように評価するかという側面が構文選択において果たす役割について分析する手がかりを得ることができ、引き続きこの点について考察を深めるつもりである。レシピ・コーパスを作成することができ、データ収集の点でも一定の成果を上げることができた。身体部位所有者上昇交替については、これまでのところまとまった研究が少なく、本研究は記述的な面でも貢献をしたと思われる。また、共同研究やワークショップを通じて、認知言語学を中心とした関連研究に従事する研究者と積極的に意見交換をすることができ、重要な知見を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も場所格交替と身体部位所有者上昇交替について研究を進めていく。場所格交替は、動詞によって評価的意味がどのように現れてくるかが異なるようである。個々の動詞に着目した事例研究を積み重ねる必要があり、そのためのデータを収集しているところである。構文の組み合わせは、構文文法にとっても興味深いデータであり、この現象を扱うことで構文文法の理論的な貢献も目指す。レシピ・コーパスを用いた調査結果をさらに発表していくとともに、大規模コーパスを用いた調査も行う予定である。身体部位所有者上昇交替については、扱う動詞の数を増やし引き続き身体部位所有者上昇構文を中心に扱う予定であり、現在口頭発表に基づいた論文を執筆中である。これらの研究をするにあたって、共同研究で得られた成果を生かしていくつもりである。
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