2015 Fiscal Year Annual Research Report
ホウ素による分子性超ルイス酸および新規低配位化学種の開発
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15J11698
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
田中 直樹 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ホウ素 / ボリニウムイオン / 小分子活性化反応 / 二硫化炭素 / アセチレン / 挿入反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、これまで合成不可能とされた、二配位ホウ素カチオンであるボリニウムイオンの反応開発を通じて、新たな「超ルイス酸分子化学」という新分野の開拓を目的に研究を行った。特に、二配位ホウ素カチオンの高いルイス酸性を活かし、求電子的なアプローチによる物質変換反応について調査し、得られた研究成果は学会や論文として発表した。 1.ボリニウムイオンによる二硫化炭素の炭素-硫黄二重結合切断反応を見出し、さらにこの反応の生成物であるチオアロイルカチオンの構造を詳細に検討し、この化学種の従来の構造描像を書き換える成果を得た。この研究は英国王立化学会誌(Chemical Communications)に発表し、掲載号の表紙として採用されるなど、国際的にも高い評価を得た。また本成果により、第26回基礎有機化学討論会でポスター賞も受賞した。 2.ボリニウムイオンに対し、三重結合を有するアセチレンを作用させると、ボリニウムイオンのホウ素-炭素結合にアセチレンが挿入する新反応を見出した。本結果は、日本化学会第96春季年会において発表し、現在は論文投稿準備中である。 上記結果以外にも、現在論文投稿準備中のものがあり、来年度での早期発表を目指している。平成27年度分の特別研究員奨励費は主に、試薬や溶媒、ガラス器具の購入費に当てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、ボリニウムイオンを用いた物質変換反応の開発を集中的に進めた。現在まで、[1]ボリニウムイオンによる二硫化炭素の炭素-硫黄二重結合切断反応や[2]三重結合を有するアセチレンの挿入反応など、多数の物質変換反応を達成している。また最近では、[3]ボリニウムイオンがカーボンナノチューブやグラフェンといったナノカーボン類に作用することで、カーボン類の電子物性を大きく変化させることも明らかにしている。これら結果はすでに論文投稿済みのものや論文投稿準備段階に入っている状態である。これら以外にも、新しい二配位ホウ素カチオンの合成や特異な発光挙動を示す分子など、興味深い現象を発見し、十分な研究成果が得られたと考えている。 二配位ホウ素カチオンの合成の確立からその反応開発に至るまで、わずか一年間で多くの研究成果を上げることができた。上記に述べた研究成果は、交付申請書に記載した「研究目的」を十分満足する結果であり、当初の計画以上に進展していると考えている。引き続き、ボリニウムイオンの反応開発を通じて、「超ルイス酸分子化学」の開拓を目指し、研究を推し進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、ボリニウムイオンの反応開発を基に研究を行っていく。特に、反応基質として小分子にとどまらず、金属酸化物や超分子集合体など、多様な物質系を対象として検討を行う予定である。また同時に、より電子欠損性の高いボリニウムイオンを合成するとともに、超ルイス酸分子の極限的な反応性を検証していく。具体的には、①アルキル基のみを有するボリニウムイオンの合成に挑戦する。アルキル基はホウ素原子に対するπ電子供与能がない。そのため、単離できる程度の速度論的安定化を付与する必要があると考えている。アルキル基の候補としてアダマンチル基を検討している。さらに、②アリール基とアルキル基が置換したボリニウムイオンの合成検討を行う。異なる置換基が導入された非対称のボリニウムイオンは、置換基の電子供与能の差が分子構造にどのように影響するのかを調べる上で重要であると考えている。合成したボリニウムイオンは、各種分光分析、単結晶X線構造解析、および理論化学計算により、解析していく予定である。 現在まで、より電子欠損性のボリニウムイオンの開発に着手しているが、その高い反応性故に、合成が困難であることが大きな課題として挙げられる。こればかりは合成手法をいくら工夫しても、電子欠損性のボリニウムイオン合成には限界があると考えている。したがって、その限界を見極めつつ、ボリニウムイオンならではの反応性や有用性を明らかにしていくことが重要であると考えている。
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