2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J11842
|
Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
伊藤 一馬 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
|
Keywords | 北宋 / 沙陀軍団 / 農牧接壌地帯 / オルドス / 宋西北辺境軍政文書 / 西夏 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、研究実施報告に基づき、以下の研究を進めた。
まず、北宋の軍事情勢や軍事体制と、北宋を取り巻く当時の国際情勢との関わりを検討した。その結果、北宋一代を通じて北方の契丹(遼)、西北方のタングート・西夏、南方の大越(ベトナム)との関係の推移が北宋の軍事政策の展開に大きな影響を与えており、各地域の情勢も連動していたと概括することができた。このうち、北宋の中期以降に軍事的重要性を増していく西北辺地域の軍事体制と国際情勢との関わりについて、2015年5月にシンガポールで開催された第3回アジア世界史学会(AAWH)において報告した。 また、北宋の太祖・太宗期(960~997年)における軍事行動を担った指揮官に着目し、その伝記史料を通じて彼らの出自や経歴を整理した。その結果、当該時期に軍事行動を担った指揮官は、1.唐末五代期以来の「沙陀軍団」の系譜につらなること、2.農牧接壌地帯である河北地域の出身者が多いこと、3.遊牧系や非漢人が多く見えること、4.太祖・太宗と個人的紐帯を形成していること、などの共通点が確認された。これらのことは、太祖・太宗が自らの側近・親信集団を通じて軍事力を掌握しようとしていたことや北宋軍事力の起源が唐末五代期の遊牧集団に遡ることを意味していると考えられる。
このほか、2015年8月に、北宋の対西夏軍事前線地域であるオルドス地域(中国内蒙古自治区~陝西省)の現地調査を行い、北宋時代の城塞址や文物、あるいは景観の調査を行った。また2015年8~9月に、ロシア科学アカデミー東方文献研究所(サンクトペテルブルク)にて、宋代の貴重な一次文書史料である「宋西北辺境軍政文書」の実見調査を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オルドス地域の現地調査によって、北宋の対西夏軍事前線における防衛戦略の具体像に迫る手がかりを得ることができた。また、「宋西北辺境軍政文書」の実見調査により、すべての文書の精確な録文を提示することが可能となった。 また、北宋の軍事政策の展開と国際情勢との関わりについて通時的な見通しを得ることができた点、太祖・太宗期の軍事力の基盤について解明できた点などから、おおむね順調に進展していると考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度に得られた成果を順次報告・論文化していく予定である。また、現地調査の成果も必要に応じて発信していく。さらに、現時点では部分的な分析にとどまっている、北宋の軍事政策の展開と国際情勢との関わりや、北宋軍事力の基盤となる武人の個別分析を、通時的に進めていく予定である。
|