2015 Fiscal Year Annual Research Report
サブ波長回折格子を用いた面発光レーザのモード制御と高出力波長可変光源への展開
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15J11948
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
井上 俊也 東京工業大学, 総合理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 高屈折率差サブ波長格子 / 波長可変 / ビーム制御 / 面発光レーザ / 温度無依存化 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在短距離光アクセスネットワークに将来用いることが期待される低消費電力な波長可変光源の実現を目指し研究を行った.各家庭と基地局をつなぐ数10kmの比較的短距離である光ネットワークでは現在コスト面からこれまで単波長の光通信が用いられてきた.しかしながら通信容量増大の要求から波長多重通信(WDM)の利用が検討されてきており,その波長可変光源には小型・低消費電力等の性能が求められている.WDM用波長可変光源における最も困難なポイントは波長安定性である.半導体レーザにおいては温度上昇により屈折率が変化し波長シフトを引き起こすため,温度調節が欠かせない.また波長可変機構はサイズ面・コスト面から,温度制御・波長掃引機構がレーザに集積されていることが望ましい. 本研究では面発光レーザ(VCSEL)の高速・広帯域波長掃引と温調フリーの実現に焦点を当てている.上部反射鏡を片持ち梁ないしブリッジ構造とし,反射鏡を静電引力で機械的に変位させることで共振器長を変化させ,発振波長を変化させる.またMEMS構造とした上部反射鏡に熱膨張率の異なる薄膜をひずみ制御層として製膜して熱バイモルフ効果を用いることで,環境温度が変化することでそれに応じて反射鏡を変位させることが可能である.半導体レーザは温度上昇に対し長波長側へ発振波長がシフトするため,短共振器側へ反射鏡が変位すれば波長変化を打ち消すことができる.また面発光レーザの反射鏡として,数百nmの厚さである高屈折率差サブ波長格子(HCG)を用いることで,スイッチング速度の向上・波長掃引時の電圧低減を目指した.以上から本研究では,上部反射鏡としてHCGを用い,バイモルフ構造の片持ち梁ないしブリッジ構造のMEMSとすることで温度無依存高速波長可変面発光レーザの実現を目指している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は,波長掃引速度と印加電圧におけるHCGの優位性の立証,温度無依存化のためのひずみ制御層の設計,デバイスの試作と温度に対する負の波長シフトの実証を行った.波長掃引速度と印加電圧については,両者はトレードオフの関係にあり梁の長さにより値が変化する.両者の比(電圧/掃引速度)は梁の長さには依存しないが,厚さには1/2乗で依存する.そのため,高速・低消費電力化にはより薄膜構造であるHCGの方が有利であることを計算上で立証した.温度無依存化のためのひずみ制御層は調節可能なようにMEMSの梁上に製膜することを検討し,温度上昇に対し下方に梁を屈折させるためにHCG材料(Al0.65GaAs)より熱膨張率の大きい金属であるAu・Ti・Crとアルミニウムの含有量が少ないAl0.3GaAsを検討した.片持ち梁の長さを50μmとすると,Au・Ti・Cr・Al0.3GaAsではそれぞれ1nm・2nm・5nm・20nmとしたときに温度無依存化の可能性が得られた. これらの結果からまず20nmのAl0.3GaAsのひずみ制御層を持つ片持ち梁と両もち張りのMEMS VCSELを試作した.HCGは1μmを下回る周期を持つ格子構造であるため,その製作には一般的に電子ビーム露光を用いるが,量産化に向けた低コスト化のためナノインプリントを用いた.製作したデバイスではブリッジ構造のものでのみレーザ発振が得られ,梁の初期変位量の違いから発振波長の変化が見られたため,MEMSを駆動し反射鏡を変位させることで波長掃引が可能であることを実証した.またデバイスを加熱することで通常とは反対である短波長側への波長シフトが観測されたため,熱バイモルフ効果により梁が下方へ変位していることが実証できた.今回作製したデバイスは温度上昇により発振波長が短波側へシフトしてしまったが,これは温度無依存化に必要な長さより梁が長かった,またはひずみ制御層が厚かったということを意味している.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度にすでにデバイスの発振と温度変化による波長シフトを得ることができたが,デバイス製作の成功率が低かったため,この改善を行っていく.またひずみ制御層・梁の長さのバリエーションを作ることにより,計算との整合性を探っていく. まずデバイス製作において重要な点はHCGのプロセスにおける劣化の回避である.HCGは数百nmのサイズの構造であるため,プロセス中に形が変わることが容易に起きる.本デバイスでは,電流狭窄や反射防止層を形成するために高アルミ組成のAlGaAsを高温で水蒸気酸化することで酸化アルミ層を作っているが,同時にHCGもわずかに酸化されてしまう.実際の距離としては数十nmであるがHCGはその10倍程度の微小構造であるため,その影響は大きい.またMEMS構造をもうけるためにプロセスの最後に反射鏡直下のGaAsをクエン酸によってエッチングして空気層とする必要があるが,AlGaAsでできたHCGもクエン酸によるエッチングの影響を受ける.エッチングレートはpHや温度によっても変化するが,理想的には1万倍以上のレート比が必要であるため,pHと温度の最適かがを検討する必要がある. 以上より,酸化時のHCG保護とクエン酸エッチングのレート比の最適化が,安定的なデバイス製作に必要である. またブリッジ構造では温度無依存化の理論計算ができていないため,その計算による実証も必要となっている. 以上より本年度は波長可変MEMS VCSELにおいて温度無依存化の実現を達成したいと考えている.
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Research Products
(8 results)