2015 Fiscal Year Annual Research Report
チェコスロヴァキア・シュルレアリスムにおける観察への志向と主体化の技法
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15J12080
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
河上 春香 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | シュルレアリスム / 社会主義リアリズム / チェコ・アヴァンギャルド / チェコスロヴァキアの美術 / チェコスロヴァキアの文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究では、第二次世界大戦以前のチェコスロヴァキアの左翼知識人らの思想的布置とソヴィエトとの関係、また、彼らの間で交わされた、共産主義文化のあり方とシュルレアリスムの関係をめぐる議論に関して主に調査を行い、一定の成果を得ることが出来た。1930年代のチェコスロヴァキアのシュルレアリスム運動は、特に理論家カレル・タイゲを中心とし、政治的にはソヴィエトと密接な関係の中にあった。そもそもは社会民主主義が優勢であったチェコスロヴァキアの左翼運動を、1920年代にソヴィエトに接近させ「ヴォリシェヴィキ化」を推し進めた(すなわち、戦後のチェコスロヴァキアが社会主義国としてソ連に隷属することになる最初のきっかけをもたらした)勢力の中には、タイゲやヴィーチェスラフ・ネズヴァルといった、のちにシュルレアリスム運動をけん引することになる作家たちも含まれていた。ソヴィエトを支持した勢力は、大きくは「プロレタリア文化」を追求する作家たちと、ロシア構成主義や未来派の影響下で「アヴァンギャルド」を標榜していた芸術家集団デヴィェトシルの作家たちに分けられ、後者の一部がのちにシュルレアリスム運動へと合流してゆくのである。こうした状況から、チェコスロヴァキアの「アヴァンギャルド」は、革命後のソヴィエトにおいて共産主義知識人たちが駆り立てられていたプロジェクト、つまり共産主義社会の来るべき新しい文化をまるごとつくりあげなければならないという壮大な構想(ボリス・グロイスが「デミウルゴス的」と形容した文化創造の衝動)を共有していたということ、そしてシュルレアリスム運動の受容はこの衝動のなかで行われたと考えることが出来る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度内に論文の投稿を予定していたが、共産主義文化の構築(特に社会主義リアリズム)をめぐってソヴィエトの側で起こった議論とチェコスロヴァキアで起こった議論との関係性、またソヴィエト、チェコスロヴァキア、フランスのあいだのイデオロギーとシュルレアリスムをめぐる理論的布置をまとめるのに時間がかかったために、達成できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、本年度の研究成果を、特にボリス・グロイスによるスターリニズム文化論を参照項としつつ論文化する。その中で、単一的な現実・集団化された均質な主体を確立することを志向するロシア・アヴァンギャルド及び社会主義リアリズムの美学と、複数の現実・複数の主体の確立を志向するチェコ・アヴァンギャルド及びシュルレアリスムの美学の対照を論じる。続いて、シュルレアリスムにおける複数性の志向が、今度はチェコスロヴァキアおける共産主義政権の成立以降、当地に形成されたアンダーグラウンド文化のなかで一定の地位を占めていたことを具体的に調査・検証してゆきたいと考えている。こうした調査結果から、均一な主体化を実現しようとする種々の文化政策、また消費社会の文化の流れに対抗する、複数の個別的な主体化を志向する美学・政治運動としてのシュルレアリスムの姿を明らかにし、これをフーコーの言う「対抗導き」の概念と結びつけて論じうるのではないかと考えている。
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Research Products
(2 results)