2016 Fiscal Year Annual Research Report
文書からみる中世日本の相続―公家・寺家・武家の比較研究―
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15J12377
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
巽 昌子 東京大学, 史料編纂所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 中世史 / 醍醐寺 / 付法状 / 法流 / 相続 / 家 / 処分状 / 古文書学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本中世における相続で用いられた文書の中で、これまで明確な位置付けがなされてこなかったものに再検討を加えることを目的とする。それらの文書の役割や意義を捉え直し、作成された理由を追究することを通じて、公家・寺家・武家社会それぞれにおいてなされた相続の特質の解明を目指す。 研究目的を達成するための第一段階として、昨年度は公家社会と密接な関係を有する寺院での相続の在り方を考察した。具体的には平安・鎌倉時代の醍醐寺を検討対象とし、その相続を捉えるためには経済的基盤のみならず、法流の相承も極めて重要な問題であったことが明らかになった。 研究期間二年目にあたる本年度は昨年度に得られた研究成果を踏まえて、引き続き醍醐寺の事例を基に、寺家社会の相続を特色付けている法流の相承に検討を加えた。殊に付法状と称される文書に焦点を当て、法流の相承の様相とその意義を探った。はじめに醍醐寺僧憲深の処分を基に、付法状の作成背景や相続における位置付けを詳らかにした。その過程で、法流の相承を考える際に看過できない問題が、法流同士の対立であることが鮮明となった。そこで次に、各法流の拠点となった院家の役割を探究した。具体的には醍醐寺報恩院に遺された手継文書に着目し、法流と院家との関係性の解明を目指した。これらの研究成果の一部は査読付きの学術誌に投稿して現在査読を受けており、残りの部分も引き続き投稿論文としてまとめている。 このほか明治大学グローバルフロントにて開催された育志賞研究発表会に参加し、「日本中世の相続における文書の再検討」という題目の口頭発表及びポスター発表を行った。本発表は文系・理系双方の様々な分野の研究者が参加して質疑応答を行うものであったため、自身の研究成果について専門用語を極力用いずに説明することが求められ、今後のアウトリーチ活動に向けた貴重な訓練の場となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間二年目にあたる本年度は、昨年度に得られた研究成果を踏まえて、引き続き醍醐寺の事例から寺家社会の相続を特色付けている法流の相承に検討を加えた。その際に着目した付法状は、その存在自体は広く知られた文書である一方で、先行研究では充分な考察をなされてこなかったものである。この付法状に焦点を当てることによって、法流の相承という寺院特有の行為の意義が鮮明になった。さらに法流の拠点となる院家へと視野を広げ、その相承に関する考察を行うことで、寺院における相続の様相が一層詳らかになりつつある。またこれらの研究を経て、付法状が寺院と世俗社会とを結び付ける働きをしたことが明らかになった。したがって付法状は、寺院と公家・武家との関わりを探る上でも重要な観点となる文書と捉えられる。この付法状を糸口とすることによって、公家・寺家・武家社会の相続の比較・検討へと研究の視野が広がることが期待される。 本年度の研究成果は現在論文として取りまとめており、査読付き学術誌に順次投稿している。このほか明治大学グローバルフロントにて開催された育志賞研究発表会では「日本中世の相続における文書の再検討」という題目の口頭発表及びポスター発表を行った。この研究発表会は文系・理系双方の様々な分野の研究者が参加するものであったため、日本史学のみならず日本文学や人類学など、他分野の研究者の方々からも貴重なご助言をいただくことができた。 以上のように相続時に用いられた文書の内、従来明確な位置付けがなされてこなかったものに再検討を加えるという目的の下で、本年度は処分状に続いて付法状に着目し、その役割を追究した。さらに付法状を軸として、公家・寺家・武家社会それぞれにおける相続の比較・検討へと研究が発展する可能性が開けたことも踏まえ、目的の達成に向けて研究が「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は醍醐寺の事例を基に、まず寺家社会の相続を特色付ける、法流の相承に着目した研究を行った。殊に法流の相承に際して用いられる付法状を通して、寺院における相続の特質を詳らかにした。この付法状の役割を探る過程において、付法状が寺家社会の独自性を示すものであるとともに、寺院と公武政権とを結び付ける役割も果たしたことが判明した。そこで来年度も引き続き付法状の役割に焦点を当て、付法状を介して寺家社会と公家・武家社会とがいかなるつながりを有したのかに関して考察を深める予定である。 また、本年度は醍醐寺報恩院に遺された手継文書にも着目し、法流と院家との関係性を追究した。この研究成果は学術誌への投稿論文としてまとめているところであり、来年度中の公表を目指している。ここで扱う院家とは各法流の拠点となるものであり、公家や武家社会での「家」に該当するものである。したがって法流と院家との関係性及び院家の役割の探究は、寺家社会と公家・武家社会の「家」の在り方を比べる際にも有効であることが期待される。そこでこの観点を活かしながら、公家・寺家・武家社会の「家」の相続の比較・検討へと、研究の発展を図っていく。 本研究課題は、まず日本中世における相続で用いられた文書の中で、従来明確な位置付けがなされてこなかったものに再検討を加えることを目的とする。続いてそれらの文書の役割や意義を捉え直し、作成された理由を追究することを通じて、公家・寺家・武家社会それぞれにおいてなされた相続の特質の解明を試みるものである。これまでの研究により、相続で用いられた文書の再検討という、第一の目的は達成しつつある。その成果を土台としながら、研究期間の最終年度となる来年度は前述の課題に取り組み、公家・寺家・武家社会の「家」の相続に比較・検討を加え、それぞれの特質と互いに及ぼし合った影響とを詳らかにし、本研究課題の集大成としたい。
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Research Products
(2 results)