2015 Fiscal Year Annual Research Report
戦後日本における「若者」をめぐる言説実践の歴史社会学
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15J12666
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小川 豊武 東京大学, 情報学環・学際情報学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 若者 / 言説 / メディア / カテゴリー / エスノメソドロジー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、戦後日本のマスメディアにおいて流通してきた主要な「若者言説」を対象に、①それらはどのような方法で信憑性を獲得してきたのか、②それらはどのような社会的実践(言語による活動)を行ってきたのか、について明らかにすることにある。 既存研究ではマスメディア上に流布する若者言説は科学的手法に基づかないステレオタイプであると批判されてきたが、そのような研究のみでは、人々が個別具体的な若者言説において「何を行ってきたのか」についての歴史が大きく見過ごされてしまうと思われる。科学的な観点からすれば誤謬であっても、若者言説が多くの社会に広く浸透し、人々の文化や政府の政策、企業のマーケティング戦略など様々な社会的実践に影響を与えてきたことは事実である。若者言説を科学的に検証し解体していく作業は重要ではあるが、若者言説がいかにして社会的なリアリティーを獲得してきたのかについての歴史を記述していくことも社会学的に重要な作業と思われる。 以上の問題関心から、平成27年度は新聞報道と雑誌批評を対象に、「若者」及びそれに関連した概念やカテゴリーの用法を分析することで、当該言説がどのような言説実践を行っているのかを明らかにしていく作業を行った。具体的には①新聞報道における「若者」カテゴリーの使用とニュースの産出方法に関する分析、②「パラサイト・シングル」論から「ニート」論への変遷とそれらのカテゴリーが可能にした活動に関する分析を行い、それぞれ書籍向けに論文化を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は新聞報道及び雑誌批評における若者言説の分析のうち、特に新聞報道の分析に注力して分析を行った。若者言説の既存研究では量的な内容分析と質的なテクスト解釈を組み合わせたものが主流であったのに対し、本研究では個別具体的なテクストに照準し、それらにおいていかなる言説実践がどのように行われていたのかのかを記述的に解明した。分析の一部は「若者はいかにしてニュースになるのか」というタイトルの論文にまとめ、学術出版社による2016年刊行予定の論文集に収録予定である。また課題研究の最終的なアウトプットとなる博士論文の執筆に向けて、今年度は主に国内の若者研究のサーベイと、本研究が分析のアプローチとして採用しているエスノメソドロジー・概念分析の先行研究のサーベイも行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については引き続き戦後日本における若者言説の実践を記述的に解明する作業を継続していく。まずは早急に「パラサイト・シングル」論から「ニート」論への変遷とそれらのカテゴリーが可能にした諸活動に関する分析の論文を完成させる。次に日本の若者言説の特徴の1つとしてしばしば言及されてきた「メディア」との結びつきについての分析を開始する。日本においては「新人類」論、「おたく」論、「携帯電話による人間関係の希薄化」論、「マイルド・ヤンキー」論など、「若者」とメディアの結びつきについて問題化したものが少なくない。これら主要な「若者とメディア」言説の収集及び分析が目下の課題となる。それに加えて博士論文への収録を念頭に、これまで執筆した論文の改稿を進め、早期の博士論文完成を目指す。
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