2015 Fiscal Year Annual Research Report
古代日本人の神意識―『古事記』『播磨国風土記』研究を中心に―
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15J40002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
那波(森) 陽香 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 古事記 / 風土記 / 上代文学 / 万葉集 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、大きく2つの研究活動を行った。 第1は、研究書(1冊、単著)の出版に向けての活動である。予定される書名は『古代日本人の神意識』、本の全体は2部構成で、第1部が『古事記』を中心とした神話研究、第2部が『播磨国風土記』を中心とした神々と天皇・人とのかかわりについての研究である。今年度は、収載予定の論文をすべて整え、序論・終論を成稿した。論文では散文作品を主な研究対象としているが、序論においては、『万葉集』に見る「神代」「神の御代」の語について考察し、全体として総合的に上代文学全体を見渡す姿勢を持つよう試みた。その内容は、現時点では未発表であるため詳述を避けるが、研究書出版後に改めてその考察を発展させ、単独の論文として世に問うことができればと考える。 第2は、応神天皇についての研究である。神代と人代との連帯を意識する古代的な心性の一端として、応神朝に一定の画期を据える傾向が認められる可能性については、上述の拙著収載の論文において明らかにするところである。そこでその点を更に追究していくために、今年度は、拙著に含めない新たな論考として「御食を得る天皇」を発表した。本論ではまず、伝承前半部の「易名」という行為について、『古事記』の文章そのものが理解を特定しにくい曖昧な表現になっていることを確かめた。その後、イルカにかかわる所伝(後半部)を取り上げ、真脇遺跡(能登)の調査や、近現代の民俗資料が記録した日本各地のイルカ漁の経験などをも参考し、応神が得たイルカがいかに莫大な海幸であったかを理解した上で、各地から食物を献じられる点に、応神の御世の特徴を認めた。そして、当該伝承の特質として、神と応神とが対等な立場でイルカの授受を行っている点を指摘し、『古事記』全体をとおして見る時、当該伝承が、神と天皇との関わりについて一つの画期となっていることを論証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は、次年度に出版予定の研究書の刊行準備を、ほぼすべて整えた。RPD申請時には、予定される採用期間全体(3年)を費やして出版に取り組む計画であったが、原稿のまとまりや出版社との連絡といった諸条件が予想以上に早く整い、来年度(採用2年目)中に出版の見通しとなった。このような事情により、当初の計画以上の進展があったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
まず当面の目標は、特別研究員としての採用2年目に、研究書刊行を果たすことである。最終校正や索引を作成するほか、近年の上代文学研究全体の傾向を見渡した上で、自らの研究の特長や位置づけを明確に把握しておくといった研究作業が必要となる。 刊行後は、その準備過程で見えて来た新たな研究角度(『万葉集』における「神代」の語の考察や、『古語拾遺』『先代旧事本紀』の所伝の研究、祝詞研究など)に取り組む。特に、研究書は内容に一定のまとまりを必要とするため、その中でほとんど試みることの叶わなかった、祝詞の考察に着手したい。祝詞の注釈書など基本的な先行研究を徹底的に洗い直すところから始め、古代日本人の神意識の特徴を、具体的かつ正確に把握する手掛かりを得たいと考える。 また、古代日本人が神と関わり、神霊を慰めるための手段として、「芸能」の重要性が予想される。そこで上代文学に見ることのできる芸能について、その種類の整理や、古代日本人の心性において芸能の果たした効果、また芸能の目的等について、考察する予定である。
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Research Products
(2 results)