2016 Fiscal Year Annual Research Report
古代日本人の神意識―『古事記』『播磨国風土記』研究を中心に―
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15J40002
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
那波(森) 陽香 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 古事記 / 播磨国風土記 / 出雲国風土記 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度前半は、単著『古代日本人の神意識』出版の最終作業を行い、9月に完成を見た。本書は、神とかかわりながら現実の生活を位置づけようとする古代的な心の働き ―古代日本人の神意識― を、主に文学的な方法と立場から問うもので、二部構成をとる。 第一部は、「神代」を代表する神として、ムスヒ(ムスビ)・オホアナムチ・スクナヒコナ・オホヤマツミの各神を取り上げた。ムスヒ(ムスビ)については、生命の初発についての古代人の把握として、「ムス」という植物の萌芽に目を留めるあり方と、霊魂を肉体に結びつけるとその活動が呼びさまされるという考え方とを論じた。オホアナムチ・スクナヒコナについては、この二神を通して初発の国土を創造する古代的な心性を掘り起こし、またこの神を通しての常世との交感がいかにして果たされたかを論じた。オホヤマツミについては、海・山の神に対する信仰が伸びてゆく経緯の一端を考察した。 第二部は、『播磨国風土記』の考察をまとめた。本風土記は、神代から人代へという時間的な経過を明確に打ち立てる中央の史観とは異なり、神・天皇・人の伝承を混在させたまま列挙するという特徴を持つ。そこで、その混在の様相についての地理的な考察等から、播磨独自の地域的な神意識のありようと、中央・地方にまたがる普遍性をもった心意との、双方を見出していく糸口を提示した。また個々の校訂・訓読を精査し直すとともに、本風土記成立の経緯や記事内容に対する編纂者の手の加わった程度等についても考察し、研究の前提を整えることに対しても力を注いだ。 以上全体として、各神とその伝承とが、人々の心に胚胎してから文献に記載されるまでの経緯を論じ、固定した神観念が文献の上に確立する以前に、個々の神に対する意識が生じ成長していった経過を把握することによって、古代的な心性の堆積とその特質を明らかにしたものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に申告したように、研究応募の際は研究活動3年目に出版を予定していたが、昨年度中に研究が予想以上に進展したため、活動2年目(今年度)に出版を終えることができた。昨年度に立てた見込みのとおりに進んだという意味において、「おおむね順調」と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
上述書の刊行を以て本研究は一つの達成を得ることができたため、今年度後半から、新たに『播磨国風土記』に特化した研究を進めてゆく準備に着手した。 本風土記の研究は近年比較的盛んであると、ひとまず言うことができる。すなわち秋本吉郎の古典大系本以後に限っても、現代までに、久松潜一(日本古典全書)、吉野裕(東洋文庫)、小島瓔禮(角川文庫)、植垣節也(風土記研究掲載の注釈稿および新編全集)、中村啓信(角川文庫)、沖森卓也・佐藤信・矢嶋泉(山川出版)と、諸氏により途切れることなく本風土記の注釈書が刊行され続けている。しかしそれらはほとんどが文庫本あるいは五風土記の合冊本であり、注釈は重要な語句に限定され、しかも頭注・脚注として短い解説に留まる。その中にあって植垣氏による注釈稿は、各語について詳細な考察を示しているが、漢籍などを参照して訓読を定めることに力点が置かれている。的確な訓読があらゆる研究の基盤となることは勿論であるが、植垣注釈稿発表後三十年近くが経つ今、こうした研究史をあらためて見直し、本風土記各記事の内容を詳細に読み解こうとする研究が為されてもよいのではないか。 このような立場から、今後は、まず本風土記飾磨郡の記事について、三条西家本に照らした本文校訂と訓読を見直したうえで、従来の諸研究に比して各伝承の内容や語釈の充実に努めるべく、研究を始めてゆく予定である。現在までのところ、単独の論文として公表するほどのまとまった成果には未だ結びついていないが、各伝承についての新見はいくつか得られている。よってこのまましばらく研究を続けながら、成果を公表する適切な方法を模索したいと考えている。
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