2015 Fiscal Year Annual Research Report
言語変化メカニズム解明の試み―彝語文献言語と現代方言のコーパス作成をもとに―
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15J40040
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岩佐 一枝 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 彝語 / 文献 / コーパス / 彝文字 |
Outline of Annual Research Achievements |
彝語文語のコーパス作成のため、ドイツ、イギリス、日本で彝語文献データの収集を行った。ドイツ・ベルリン州立図書館では、これまで報告されていた3点の彝語文献以外に、もう1点未報告の彝語文献が所蔵されていることを発見し、当文献の方言について同定した。イギリス・大英図書館では、彝語文献のマイクロフィルム4点を全てデジタル化した。また、未見であった文献の中に、ヨーロッパでは比較的所蔵数の少ない彝語東部方言の文献があることを新たに確認した。東部方言の文献は在欧文献内において母数自体が少ないため、本文献のデータは極めて貴重といえる。日本国内の彝語文献に関しては、大谷大学博物館所蔵の『華夷訳語』について、その内容の整理・分析に着手した。 現在は、上記の調査において収集したデータの整理・分析・解読を進めながら、コーパスを作成している。特に、今回の調査で新たにその存在を確認した文献からもデータが得られるため、彝語文語コーパスの一層の充実が期待できる。 また、先述の研究・調査に加え、彝文字の地域毎の字形・音価の差異や、文字の歴史的変遷過程をより詳細に考察し、且つより明確にその分布状況を確認するため、語彙項目毎に各地の彝文字を整理した「彝文字地図」の作成に着手した。これは「彝文字の伝播状況とその変遷過程の可視化を実現し、その分析結果を彝語の共時的・通時的研究結果に重ねあわせることで、彝語方言の多層的な相関関係を立体的に描き出していく。」という本研究最大の目標実現への大きな一歩といえる。 現代彝語の記述研究については、2015年8月に中国雲南省石林彝族自治県で彝語東南部方言の下位方言の一つである撒尼彝語について、特に使役表現を中心に調査を行った。現在そのデータの整理・分析を行っている。 なお、上述の文献及び現代方言の調査・研究については、その内容の公開を目指し、目下論文執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 文献調査・研究:まずドイツ・ベルリン州立図書館にて、未報告の文献の存在を確認、その彝語方言の特定を行った。この文献の調査・分析結果が加わることで、当初の計画以上のデータが得られ、コーパスの充実が図れることから、更なる研究の進展が期待できる。 イギリス・大英図書館では、彝語文献のマイクロフィルム4点について、デジタルデータを作成した。また、未見であった文献の調査を進めた結果、ヨーロッパでの所蔵数が少ない彝語東部方言のものと思われる文献があることを発見した。現在、調査した文献についてのデータを整理・分析し、それらに関する論文を執筆中である。文献解読についても同時に進めている。なお本調査時に、大英図書館側と彝語文献の撮影・画像データのデジタル化に関して今後前向きに協議していくことで合意した。 日本国内の彝語文献については、大谷大学博物館所蔵の『華夷訳語』の研究に着手し、目下、その内容を整理・分析している。 上述のように、現在は収集したデータの整理・分析を進めつつ、データベースのひな形を作成・修正しながら、コーパス構築の準備を進めている。 2. 新たな試みとして、現在入手可能な彝文字資料をもとに、各地の彝文字を語彙項目毎に地図上に表す作業に取り掛かった。現在は、本地図に使用する語彙項目や彝文字データの更なる充実を図ると共に、本結果の早期公開を目指し、データの登録を進めている。 3. 当初予定していた四川省における現代方言の調査は日程の都合上実行できなかったが、当地で使用されている「規範彝文」の識字教育資料3点を精査する機会を得、これにより四川の規範彝文に関する新たな知見を得た。雲南省での東南部方言の調査は予定通り遂行し、特に使役表現を中心にデータを収集した。その際、当地の民族委員会と今後彝語文献の整理・分析及び解読作業を連携して行っていくことで同意した。
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Strategy for Future Research Activity |
彝語文献に関しては、前年度に引き続き、大英図書館の未解読文献の調査・分析を行い、特に、申請者がこれまで取り組んできた彝語文献カタログの完成を目指す。また、大英図書館側と彝語文献のデジタルデータ使用に関する協議を更に進め、使用許諾が取れ次第、文献の電子化に着手する。解読を進めた文献から得られた文語データは整理・分析の後、随時コーパスに反映させていく。更に、フランス所蔵の彝語文献のカタログも本年度内の完成を目指す。 現代彝語方言については、前年度調査予定であった中国四川省を始め、貴州省、広西壮族自治区において調査実施の予定である。収集したデータは精査した後、随時コーパスに追加していく。また、これと並行して、四川・貴州・広西地域一帯の文献についても、インフォーマントの協力の下調査を行い、彝語文語のデータも積極的に収集していきたい。そして、これにより得られた文献、彝文字、彝語文語に関するデータもデータベースに追加しながら、随時そのフォーマットを再考し、工夫を重ねていくことで、より活用し易いコーパスを構築していく。 前年度から作成している「彝文字地図」に関しては、使用可能なデータを継続して探しながら語彙項目を増やし、常時データの充実に努めたい。そして、これまで本研究で収集してきた現代彝語、及び彝語文献の語彙、文例、音声データ、彝文字データなど、関連する全てのデータをこの彝文字地図とリンクさせることで、総合的な彝語コーパスの作成を目指していく。
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Remarks |
ユネスコ・アジア文化センターより、東京大学附属図書館に寄贈された彝語による識字教育資料3点に関して、書誌情報の提示、並びに当資料の解説文を執筆。(アジア研究図書館のウェブサイトにて公開予定。)
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Research Products
(3 results)
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[Journal Article] Rice Plant: Tibeto-Burman2016
Author(s)
Hiroyuki SUZUKI, Satoko SHIRAI, Keita KURABE, Kazue IWASA, and Shiho EBIHARA, Ikuko MATSUSE
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Journal Title
Studies in Asian Geolinguistic
Volume: 2
Pages: 印刷中
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Sun: Tibeto-Burman2015
Author(s)
Satoko SHIRAI, Keita KURABE, Kazue IWASA, Hiroyuki SUZUKI, and Shiho EBIHARA
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Journal Title
Studies in Asian Geolinguistics
Volume: 1
Pages: 14-17
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research