2015 Fiscal Year Annual Research Report
宇宙線のフラクタル拡散・加速の複数衛星による観測的検証
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15J40063
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
大塚 史子 九州大学, 総合理工学研究院, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 高エネルギー荷電粒子 / 古典拡散 / 非古典的拡散 / 地球磁気圏衝撃波上流 / 磁気流体波動 / 沿磁力線ビーム / テスト粒子計算 / クラスター衛星観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、宇宙線(高エネルギー荷電粒子)の拡散過程において、 非古典的拡散(フラクショナル拡散またはフラクタル拡散)の観点から新しい観測手法を提案し、非古典的拡散およびそれに付随する宇宙線加速の観測的検証を行うことを目的としている。停滞が支配的な非古典的拡散では、宇宙線は衝撃波面近傍に長く留まることができるため、天体衝撃波を介したフェルミ加速において、加速効率が上昇する可能性がある。本研究は、従来のフェルミ加速モデルにおける加速限界の問題を解決する糸口となり得る。
本年度はまず、直接観測が可能な地球磁気圏衝撃波上流において、高エネルギーイオンの拡散過程が従来の古典拡散の枠組み内で説明可能か否かについて、テスト粒子計算とクラスター衛星観測の比較により検証した。また、対象とした観測イベントでは、磁力線に沿って上流に逆走する沿磁力線ビーム(Field-Aligned Beam: FAB)イオンに由来する磁気流体波動が定常的に観測されていた。そこで、この波動が上流イオンの拡散過程に果たす役割を調べた。
数値解析の結果、沿磁力線拡散係数は観測時間スケールに依存し、長時間では拡散係数が時間スケールに依存しない古典拡散に達した。古典拡散に達する時間スケール(拡散時間)は、粒子のエネルギーやFABの有無により異なった。FABよりも高エネルギーのイオンでは、拡散時間は太陽風が衝撃波上流を対流する時間(対流時間)よりも短く、古典拡散の枠組み内で議論可能であった。またFAB起源の波動は、FABより高エネルギーのイオンの沿磁力線拡散を抑制する働きがあることを明らかにした。さらに、FAB起源の波動を考慮することで、計算値は観測値とオーダーで一致する結果を得た。一方、FABよりも低エネルギーのイオンでは、拡散時間は対流時間より長く、非古典的拡散にもとづく解析の必要性を示唆する結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年度目は古典的拡散の枠組み内でテスト粒子計算と観測の比較を行い、非古典的拡散にもとづく解析が必要なパラメータ領域、テスト粒子近似で観測を説明できるパラメータ領域を明確にした。2年度目では1年度目の結果を踏まえ、非古典的拡散の本格的な解析を行う予定である。
当初の予定では、1年度目に非古典的拡散にもとづく解析を行い、2年度目にその観測的検証を行う予定であった。しかし実際には、2年度目の予定を1年度目に前倒して実施した形となった分、非古典的拡散にもとづく解析に着手できていない。ただし、当初予定していなかった観測データの波動解析に着手し、観測と数値計算を比較するための下準備ができた。さらに、FAB起源の波動が上流イオンの拡散過程に果たす役割を明らかにした点は、予期していない成果であった。
以上の理由より、研究進捗状況は総じて順調に進展していると言える。本研究は、申請者の受入研究者が代表を務めるハンガリーとの二国間交流事業と相乗的な内容になっている。2年度目では相手国の観測チームと連携し、効率良く研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
2年度目は主に、fractional differential equation(FDE)による解析とParticle-in-cell(PIC)計算による解析を行う予定である。
既存の衝撃波フェルミ加速モデルでは古典拡散を仮定しており、衝撃波上流の被加速粒子の密度分布は、太陽風による対流項と拡散項のバランスで指数関数分布となる。しかし、非古典的拡散の場合には、拡散項は一般に非整数階微分となり、指数関数分布は得られないはずである。非整数階微分の拡散項と太陽風による対流項を含むFDEの数値積分から、定常状態における被加速粒子の密度分布を求める。そして、ハンガリーの観測チームへ非古典的拡散の観点から観測できるようなモデルを提案する。
1年度目は、宇宙線粒子の運動が背景の電磁場に影響を与えないテスト粒子計算を行った。しかし1年度目の数値計算では、沿磁力線ビームより低エネルギー側のイオンの観測結果を説明するに至らなかった。一般に、粒子のエネルギーが低くなるほどその粒子の数密度は増えるため、これらの粒子運動が背景の電磁場に影響を及ぼすことは十分考えられる。この場合、テスト粒子近似は妥当でなく、粒子運動と電磁場の時間発展をセルフコンシステントに解くPIC計算を行う必要がある。2年度目はPIC計算を行い、FAB起源の波動の有無によって、被加速粒子の密度分布がどのように変化するか、非古典的拡散の観点から議論する。
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