2015 Fiscal Year Annual Research Report
建設労働市場のグローバルな統合と技能再生産のジレンマ―移民拡大をめぐる制度的実践
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15J40078
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
毛利(惠羅) さとみ 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 社会学 / 移民 / 外国人労働者 / 建設 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本における将来的な移民労働者の拡大をめぐる構造的要因とその影響を実証的に明らかにすることである。特に、建設分野に焦点を当て、目下、緊急施策が取り組まれている「外国人技能実習制度」「外国人建設就労者受入事業」を対象とする。具体的な研究課題は以下の4点―移民政策と労働市場政策の形成論理を解明すること(課題1)、受け入れ実態を明らかにし、政策の有効性、制度上の意図と実践の乖離、社会的結果について考察すること(課題2)、国際的な技能形成システムの国内外の労働市場への影響について考察すること(課題3)、労使関係再構築における移民労働者の役割を考察すること(課題4)である。 平成27年度は、課題1と2に重点を置き、首都圏を中心に国内でのフィールド調査を実施するとともに、建築学会建設産業小委員会への定期的参加(計5回)を通じて本テーマに関する学際的な議論を重ねた。2015年7月~3月に実施した聞き取り調査では、監理団体5団体(建設特化型3団体、多業種型2団体)、受入れ事業主7社(建設関係5社、製造関係2社)、推進企業2社の計14組織の事務局担当者や経営者にインタビューを実施した。また集合研修センター1カ所、加工場・工場3カ所、実習生宿舎2カ所を視察するとともに、業界セミナー等への参与観察を実施した。既存資料や先行研究の収集・分析については、移民政策に関しては、政策審議内容や緊急施策に関する基礎資料や東アジアにおける移民制度に関する先行研究、産業政策に関しては、建設労働研究に関する先行研究および国交省を中心とした産業政策に関する基礎資料の収集・分析に努めた。調査を通じて、当初の想定に反して、制度活用の拡大が見られないことが明らかとなり、短期的・中長期的な観点からその要因を多面的に分析し、報告書および学会報告等を通じて、施策と実態の乖離が拡大している実態を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度における当初の進展目標には、①研究ネットワークの構築、②国内フィールド調査の実施、③海外フィールド調査に向けた準備調整を挙げていた。現在までの進展状況は、①に関しては、移民や労働関係の研究会等々への参加だけでなく、建築関係の学会研究会への定期的参加や運動団体および労組などとの交流を行い、多面的な対象との繋がりを構築するとともに、本テーマに関する議論を深める事ができた。②に関しては、事業主と監理団体を中心に予定数以上の聞き取り調査を重ねることができ、制度の実態を明らかにすることと同時に、調査対象に対しても国内外でのネットワークを構築することができた。その結果、③に関しても、ベトナムを想定した調査対象へのアプローチが可能となり、海外フィールド調査の準備を進めている。以上のことから、当初の計画以上に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は主に国内調査に重点を置いていたが、今後は、研究計画で掲げた課題3および課題4に重点を以降しながら、よりグローバルな視点から調査研究を遂行していく。また、国内調査で焦点を当てた産業側・受け入れ側の視点だけでなく、移動する主体や送り出し側の要因についても考察対象とする。 平成28年度は、海外フィールド調査(ベトナムを予定)を実施し、送出し側の制度実践プロセスについて解明するとともに、国内調査と関連させながら越境的な労働者の移動のあり方について考察していくこととする。 平成28~29年度を通じて、分析の重点を、政策・制度面から社会問題解決をめぐる多様な主体による社会運動・労働運動面での取り組みに広げ、産業はどのような制度再構築に取り組みつつあるのか、運動側はどのような論理・戦略に基づいて移民労働者の支援・組織化運動を行っていくのか、その社会的反応における移民労働者の位置づけや役割はどのようなものかという点について、理論・実証面から統合的な考察を行う。加えて、国際比較研究を念頭に、今日的な人の移動と社会的排除・包摂の論理という視点からの、理論的考察を試みる。
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