2015 Fiscal Year Annual Research Report
毘沙門天像の成立と展開 ―唐・宋・元から平安・鎌倉へ―
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15J40082
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
佐藤 有希子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 企画情報部, 特別研究員(RPD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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Keywords | 毘沙門天 / 鎌倉時代 / 元時代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究「毘沙門天像の成立と展開―唐・宋・元から平安・鎌倉へ―」は、東アジアの仏教において大変重要視された毘沙門天が、7から14世紀においてどのように信仰され、また関連する美術作品を生み出してきたかについて考察するものである。27年度は、毘沙門天信仰とその造像の全容を把握することを目標とした。なかでも先行研究でも手薄であり、また申請者自身も今後の課題としてきた13・14世紀及び中央アジア諸国に考察の対象を広げた。具体的には鎌倉時代の神奈川・清雲寺像などの慶派による造像、中国河北省・居庸関像などチベット系の四天王像を中心的な研究対象としている。資料や経典の収集・分析、作品調査を踏まえた上で、造形的特質と思想背景・人的環境という三点から個々の作品の史的意義を実証的に位置づけようと試みた。本年度(4月~12月)における具体的な研究実施状況は以下の通りである。
1、日本・アジア・欧米各地に所蔵される毘沙門天像(14世紀までに制作された彫像・画像)に関するデータベース作成。データベースフォーマットの作成、作品情報の抽出、画像スキャンなどの作業を含む。FileMakerで作成中。2、元代の毘沙門天像に関する資料収集・整理。元代の毘沙門天像を含む仏教美術作品に関して、河北省・居庸関および浙江省・飛来峰造像を中心に画像や書籍等の資料を収集し、整理を行った。来年度以降の現地調査を経て考察結果を論文にまとめ、発表予定。3、鎌倉時代の毘沙門天像に関する資料収集・整理。なかでも神奈川・清雲寺像について調査後に考察結果を論文にまとめ、発表予定。4、博士論文の出版に関する準備。博士論文の出版・書籍化に向け、博士論文で触れた作品について、重要なものを抽出し、さらに考察を掘り下げた。なかでも単独の刊行論文として未発表である京都・鞍馬寺像、奈良・信貴山寺像、滋賀・善水寺像について再検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
6月に妊娠が判明したため、当初予定していた海外滞在および国内外の調査を今後に延期した。ただし、東京で行うことのできる資料収集・調査やデータベース作成などの作業は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、14世紀までのアジアの毘沙門天造像に関する作品研究の充実と、舎利信仰と関連する美術作品についての研究に着手する。インドから西域を経て中原から伝えられた仏教思想・信仰と、それを表象する仏教文物の図像・様式というかたちが、いつ、どのように受け入れられ、各地域で変容したのか、毘沙門天という一つの視点を通して具体的に位置づける。27年度に行うことのできなかった国内外の作品調査を進めるとともに、論文公表と学会発表を行う。具体的な研究計画は以下の通りである。 28年4~6月、神奈川・清雲寺像の作品調査、および奈良・朝護孫子寺蔵毘沙門天像に関する作品調査を行う(奈良国立博物館にて特別展『国宝 信貴山縁起絵巻 朝護孫子寺と毘沙門天王信仰の至宝』開催のため、見学予定)。滋賀・善水寺像を中心とした天台系毘沙門天像についての論考を『仏教芸術』に投稿。同7~9月、杭州・飛来峰や河北省・居庸関など中国での現地調査を予定。中国・長干寺址出土舎利塔に関する論考を『MUSEUM』に投稿。同10~12月、中国・法門寺地宮の毘沙門天像に関する論考を『仏教芸術』に投稿。 29年1~3月、山形・上杉神社蔵毘沙門天画像に関する論考を『美術史論叢』に投稿。同4~6月、奈良~平安時代の毘沙門天信仰と造像に関して『美術研究』に投稿。同7~9月、京都・鞍馬寺像の作品調査およびチベット・インド・パキスタンの現地調査を予定。唐~宋時代の毘沙門天信仰と造像について『美術研究』に投稿。同10~12月、鎌倉時代の毘沙門天信仰と造像について『仏教芸術』に投稿。 30年1~3月、南宋・元時代の毘沙門天信仰と造像に関して『密教図像』に投稿。同4~6月、西域風毘沙門天図像の源流に関する論考を『仏教芸術』に投稿。
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