2017 Fiscal Year Annual Research Report
背景音提示下での学習成績を規定する要因の検討:音の種類と学習者の特性に着目して
Project/Area Number |
15J40206
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
髙橋 麻衣子 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2020-03-31
|
Keywords | 無関連音声効果 / ワーキングメモリ / 読解 / 覚醒水準 / 注意 / 学習環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
音楽を聴きながら勉強する等,遂行すべき認知課題とは無関連な背景音が提示されている場合,課題の遂行成績はどのように影響されるのだろうか。本研究は,背景音の種類,遂行する課題の種類,そして学習者の認知特性に焦点を当てて,背景音提示が学習の遂行に及ぼすメカニズムを明らかにすること,そして学習者の個人特性を考慮したうえでそれぞれに最適な背景音提示による学習支援方法を提案することを目的としている。 昨年度,歌詞の有無と器楽音の有無を操作した背景音提示下での小説の読解成績を検討する実験を実施し,背景音が朗読音声である場合に読解成績が低下することを示した。本年度はまず,この実験で取得した読解中の参加者の視線データを分析した。その結果,歌詞を朗読している背景音を提示する条件で参加者の視線の停留時間が増加することが示された。昨年度の結果とあわせて,器楽音にのせていない歌詞の朗読音声が小説の読解を阻害することが考えられた。 今年度はさらに,学習者の認知特性を測定し,背景音提示下での学習成績を検討した。実験1では24名の成人を対象にリーディングスパンテストを実施して各々のワーキングメモリを測定し,歌詞の有無と器楽音の有無を操作した背景音提示下での説明文の読解成績を比較した。実験2では12名の成人を対象に,課題に無関連な情報を無視できる程度を測定するサイモン課題を実施し,実験1と同じ背景音がアルファベットの系列再生課題の成績に及ぼす影響を検討した。これらの実験の結果,学習者の認知特性であるワーキングメモリ容量と,背景音提示による干渉効果には関連がみられなかったが,サイモン効果が大きい学習者は背景音提示の干渉効果が大きいことが示された。また,背景音に歌詞が含まれていると課題成績が低下することが示され,背景音に含まれる音声情報が課題遂行に必要な言語的なリハーサルに干渉する可能性が考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は順調に進展している。本研究の大きな目的は,背景音の種類,遂行する課題の種類,そして学習者の認知特性を操作して,背景音提示下での学習メカニズムを明らかにすることであるが,これらすべてを検討する実験を一通り完遂した。 まず背景音の種類については,昨年度に引き続き,歌詞(言語)の有無と器楽音(メロディ)の有無を操作した3種類の背景音を新たに作成し,学習課題への影響を検討した。その結果,背景音に言語が含まれていると課題成績に干渉することが一貫して示されている。一方で,言語が含まれない背景音には課題の遂行を促進させる可能性も示されており,今後,ホワイトノイズや自然音などを含めて詳細に検討する予定である。 遂行する課題の種類については,小説の読解,説明文の読解,アルファベットの系列再生課題を用いて検討を進め,文章の読解課題よりも系列再生課題において背景音提示の干渉効果が大きいことが示された。言語的なリハーサルを必要とする課題に,背景音の特に言語的な側面が干渉する可能性が考えられる。今後,視空間的な処理を求めるような非言語の課題を用いて背景音提示の効果を検討する。 学習者の特性については,リーディングスパンテストによって測定される言語的ワーキングメモリ容量,そして,課題とは無関連な情報を無視できる程度であるサイモン効果を指標として,背景音提示の効果との関連を検討した。2つの実験の結果,リーディングスパンテストの得点と背景音提示による干渉効果には関連がみられないことが一貫して示された。一方でサイモン効果と背景音提示の効果には関連があり,サイモン効果が大きく不要な情報の影響を受けやすい学習者ほど,背景音の提示によって課題成績が低下することが示されている。 以上のように,多種多様な背景音と学習課題を用いて,学習者の認知特性ごとに背景音提示の効果を検討し,一定の成果を出すことに成功している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策は以下の二点に集約される。 一点目はこれまで実施した実験の拡張である。これまで,言語とメロディの有無を操作した背景音を用いて,言語音を含む背景音が課題遂行に干渉することを一貫して示してきた。今後,課題遂行を促進するような背景音を特定するべく,言語音を含まないホワイトノイズや自然音等を用いて実験を行なう。また,遂行する課題の種類も増やし,特に言語的な側面を含まない視空間的な課題における背景音提示の効果を検討する。さらに,個人の認知特性として課題遂行時の覚醒水準に焦点を当て,この個人差と背景音提示の効果について検討を深める。これらの実験結果をふまえて,背景音,学習課題,そして学習者の認知特性を包括的に説明できるような背景音提示下の学習メカニズムをモデル化することを目指す。 二点目は,発達障害をもつ等,認知能力に偏りのある学習者に対して,背景音を用いた支援方法を提案することである。これまで,発達障害をもつ児童・生徒へのインタビューから,全くの無音状態よりも背景に何か音が提示されているほうが学習しやすいという主観的な報告を数件受けている。そこで,発達障害をもつ学習者への認知検査やインタビューを通して,背景音の提示が学習を支援する可能性を模索し,実証実験によってその効果を明らかにする。すでに協力者数名に対してサイモン課題等の認知課題を実施しており,次年度以降,どのような背景音が効果を持つのかを複数の実験を通して提案していく予定である。 上記二点に加えて,これまでの成果をまとめて国内外の学会で発表し,論文としてまとめて国際誌に投稿する。
|
Research Products
(2 results)