2015 Fiscal Year Research-status Report
基盤的な数値数式融合計算における数値的安定性と数学的安定性の研究
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15K00016
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
長坂 耕作 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (70359909)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アルゴリズム / 数式処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度には,予備的研究に基づき,比較的実現の可能性が高いと見込まれる方法で,課題1「構造化QR分解に基づく近似GCDの数値的安定性の向上」と課題2「パラメータを持つ多項式GCDの数学的安定性の解明」のそれぞれについて研究のベースとなるアルゴリズムを実現する計画で研究を進めた。課題1については,Delvauxらによる構造化QR分解(計算量がO(n^2))を用いることで既存の近似GCDアルゴリズムの改善を試みた。特に,DelvauxらによりToeplitz-like行列では数値的に不安定であることが報告されており,それを改善するために,Givens回転の修正,unimodularityを保存するように修正,計算過程においてアルゴリズムの前提条件が満たされない場合にそれを検出可能なように修正(Toeplitz-likeのrepresentation graphをCauchy-likeに埋め込み)などを試みた。しかしながら,近似GCDアルゴリズムに用いるに十分な数値的な安定性を得るには至らなかった。これらの手法と経緯については,日本数式処理学会の大会や数理解析研究所の研究集会などで報告している。一方,この試みの副産物として,そのフレームワークが概ね似ている既存の近似GCDアルゴリズムであるQRGCD,ExQRGCD,UVGCD,Fastgcdについて,相互の特徴を組み合わせることで劇的な改善が可能であることを発見した。特に,比較的古典的なアプローチを採用しているExQRGCDに,UVGCDのrefinementステップを組み合わせることで,精度の上で評価の高いUVGCDや,理論計算量の上で評価の高いFastgcdに比肩する性能になることが判明した。この結果については,MICA 2016 (Milestones in Computer Algebra, 2016) などで報告する予定である。他方,課題2については,課題1に関して予期しない成果(副産物よしての劇的な改善)の精査を行った関係で,計画通りに実施が行えていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
課題1「構造化QR分解に基づく近似GCDの数値的安定性の向上」については,予期した改善(Delvauxらの構造化QR分解に基づく改善)が確認できなかったが,副産物として,既存のアルゴリズムの劇的な改善が行えたことで,計画とは異なるものの近似GCDの数値的安定性の向上に結び付く研究成果を出すことができた。しかしながら,その一方で,課題2「パラメータを持つ多項式GCDの数学的安定性の解明」については,計画通りの実施が難しく,予備的研究の段階のアルゴリズムの精査までを実施することが出来ていないため。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1「構造化QR分解に基づく近似GCDの数値的安定性の向上」については,Delvauxらの方法による数値的安定性の改善は難しいと考え,本研究課題申請当初の計画に基づき,別のQR分解法などの採用を検討する。特に,平成27年度の研究成果から,既存アルゴリズムの共通するフレームワークの中において,下位のアルゴリズムの組み合わせを変更することで劇的な改善が更に発見される可能性が高いことから,GPGCDやSTLNに基づく近似GCDアルゴリズムなどとの組み合わせについて実験を進めたい。課題2「パラメータを持つ多項式GCDの数学的安定性の解明」については,平成28年度に中心的に取り組む課題として設定し,平成27年度の遅れを取り戻すと共に,当初計画通り,その高速化について取り組み。
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Causes of Carryover |
小要因として,国内旅費が当初計画よりも若干節約できたこと,平成27年度の課題1のような予期しない成果を得た場合に柔軟な対応が可能なよう抑制したことが挙げられる。最大の理由は,交付決定額が課題申請時よりも減額されているため,平成28年度に購入予定の大規模計算用ワークステーションの経費を課題申請時に近づけるためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額と合わせた助成金は,課題申請時の性能になるべく近い大規模計算用ワークステーションを購入し,特に課題2の実験に使用すること。平成27年度の課題1における予期しない成果(劇的な改善)を課題申請時と異なり2つの国際研究集会(連続した日程で開催)で報告する予定なので,その旅費に使用すること。その他,当初計画通り,国内旅費として使用する。
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