2016 Fiscal Year Research-status Report
漏洩情報の量に基づくセキュリティ解析を可能とする情報量指標の開発
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15K00017
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
楫 勇一 名古屋大学, 情報連携統括本部, 教授 (70263431)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 情報理論 / 情報セキュリティ / エントロピー / 多項分布 / ハッシュベース署名 / 指紋関数 / 安全性証明 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の研究では,前年度に開発した多項分布のエントロピー高精度近似手法の詳細な評価と改良を行った.また,エントロピー近似の研究と並行し,利用に伴う情報漏洩の恐れのないハッシュベース電子署名方式(HB-OTSと略記)に関する検討を進め,安全で効率の良いHB-OTSの構成法を示した. エントロピー近似手法については,Stirling近似により出現する項に対してTaylor級数展開を行い,高次の(したがって近似値への影響の少ない)項の値を調整することで,上界式および下界式の導出を行っている.今年度の研究では,Stirling近似を行った後の複数の項を組み合わせ,それら複数の項からなる関数に対してTaylor級数展開を行う手法を検討した.項の組み合わせ方によっては,個々の項に対してTaylor級数展開を行う場合に比べ,誤差の混入を抑えることが可能となる場合があり,全体としての精度向上に貢献できる可能性が明らかとなった. HB-OTSは,数論的な問題に安全性を依拠する従来の電子署名とは異なり,暗号的ハッシュ関数の性質の上に電子署名の機能を実現するものである.今年度の研究では,定数和指紋関数と呼ばれる特殊な関数を導入し,複数のハッシュ連鎖と組み合わせて用いることで,証明可能安全で効率の良い HB-OTS の構成が可能であることを示した. 平成29年度の研究においては,HB-OTS の研究をさらに進めるとともに,プライバシ保護技術への急速な要求の高まりを踏まえ,これまでの知見をパーソナルデータの匿名加工に関する研究に展開することも検討する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における最重要課題は,情報漏洩量を定量的に評価するために必要となる,多項分布のエントロピーを正確に計算(近似)する手法の開発である.この課題については所期の計画以上に研究が進展しており,研究の本質的な部分については,ほぼ目標を達成しつつあると言って良い.また,平成28年度の研究では,多項分布を応用することで特殊な指紋関数が構成可能であり,その関数を用いてHB-OTSが実現できることを示した.このこと自体は大きな成果であるが,所期の計画にはなかった展開であり,当初の計画と実際の活動との間に若干の齟齬が生じた点は否めない(大きな進展ではあるが,ベクトルの向きが少しずれてしまった).このため,全体としては「おおむね順調に進展」とするのが適当であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究の展開と社会情勢の急速な変化を鑑み,平成29年度の研究では,初期の計画を若干修正して研究を進めることが妥当であると考えている.HB-OTSは,多数の小型端末の同時制御等にも有効であり,様々なサービスにおける潜在需要に応える可能性を持つ技術である.初期の計画にはなかった展開であるが,平成28年度に開発したHB-OTS方式の検討を進め,実用化への道筋をつけたいと考えている.また,パーソナルビッグデータの利用可能性が注目を集めるのに伴い,それらデータ経由でプライバシ情報が漏洩することへの懸念も広がっている.本研究の主題である漏洩情報量の定量的評価技術を,それら問題に展開していくことも検討する.
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Causes of Carryover |
研究代表者の勤務先の異動に伴い,当初計画していた国際会議参加予定等を延期した.また,研究成果を記した論文の掲載料の請求が遅れたこともあり,次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度に繰り延べとなった国際会議発表を行うとともに,論文掲載料の支払い等により,早期に当初の予算計画に復帰する.
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