2015 Fiscal Year Research-status Report
環境や生体内生成のN-ニトロソアミンの光化学反応解析とその遺伝毒性・細胞機能影響
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15K00556
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
有元 佐賀惠 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (90212654)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 幸子 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (70225035)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 光遺伝毒性 / 光活性化 / N-ニトロソプロリン / NOラジカル / cGMP / DNA傷害 / 光反応機構 / タバコ副流煙 |
Outline of Annual Research Achievements |
環境などから体内に取り込まれたN-ニトロサミンや生体内で生成したN-ニトロソアミノ酸が全身循環して皮膚に達し、日光などの光照射により反応して、活性酸素種・NOラジカル・アルキルラジカルなどを生じ、光遺伝毒性・変異・蛋白機能傷害を起こす可能性を明らかにすることを目標として、次の研究を行った。 皮膚モデルとして、ヒト由来表皮ケラチノサイトHaCaT細胞を用い、N-ニトロソアミノ酸の一つN-ニトロソプロリン(NPRO)のUVA光反応を解析した。NPROの光反応で放出されるNOラジカルはグアニル酸シクラーゼを活性化して細胞内cGMP量を上昇させ、cGMP依存性のキナーゼやホスホジエステラーゼなどの活性を擾乱すると予想される。NPRO存在下、UVA照射したHaCaT細胞内のcGMP量を定量したところ、対照と比べcGMPの増加が見られた。従って、光反応によるNO放出でcGMPの関与するシグナル伝達を擾乱している可能性のあることが分かった。 また、NPROの光反応によるDNA付加体形成機構の解析のため、好気性および嫌気性条件におけるDNA損傷量をLCMSMS測定による定量的比較を行った。その結果、嫌気性条件において、DNA上の8-oxoguanine量は減少したが、DNAへのアルキル付加体量は減少せず、むしろ増加することが分かった。従って、NPROの光反応は主に活性酸素を経由しないType I機構で起こることが明らかとなり、体内のような嫌気性条件下でもNPROの光遺伝毒性反応は起きうることが分かった。また、水環境に加えて疎水環境でも、NPROが光遺伝毒性を示すことを明らかとした。 さらに、N-ニトロサミンを含む、環境化学物質の光遺伝毒性研究を行った。その結果、タバコ副流煙はUVA照射によりむしろ変異原性を減弱することが分かった。これは、変異原性成分の光分解によるものと思われ、大気など環境滞留中における光化学変化は無視できないと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的とするN-ニトロサミンやN-ニトロソアミノ酸が光照射により光遺伝毒性・変異・蛋白機能傷害を起こす可能性について研究を行い、おおむね順調に推移している。すなわち、(i) N-ニトロソアミノ酸の一つ N-ニトロソプロリン(NPRO)のUVA反応により、表皮由来培養細胞内でcGMP量の変動を起こすことを明らかとし、cGMPを介するシグナル伝達とタンパク機能に対する光活性化NPROによる擾乱を明らかとした。(ii) N-ニトロソプロリンのUVA反応による光遺伝毒性機構を進めた。これまでにNPROの光反応でデオキシグアノシンに2種類の付加体、デオキシアデノシンに4種類の付加体を形成することを見出しており、それら付加体がDNA上のグアニン残基とアデニン残基にも、同様の付加体形成することを見出した。DNAの酸化障害並びにアルキル化傷害の反応機構を解析し、むしろ嫌気条件で反応が進むことからTypeIの光反応機構であることをを明らかとした。光反応機構解析を一段と進めた。(iii) NPROの光活性化が水環境に加え疎水環境下でも起きることを明らかとした。(iv)NPRO以外のN-ニトロサミンを含む環境化合物に対する、光反応の遺伝毒性影響を明らかとした。 以上、研究目的に沿い、H27 の計画の主な部分、並びにH28年計画の一部についても達成している。また、成果公表のため、国内学会発表2回、国際学会発表1回行っており、さらに国際学会発表1回をすでに予定している。以上より、おおむね順調に成果をあげていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究をさらに進め、N-ニトロサミンやN-ニトロソアミノ酸の光活性化反応の解析をおこなう。また、N-ニトロサミンやN-ニトロソアミノ酸の光遺伝毒性・変異・蛋白機能傷害を明らかとするため、次に研究を行う。 (i) NPROの光反応によるヒト表皮由来細胞における、cGMPなどのシグナル伝達系蛋白変動とそれに引き続くタンパクや酵素活性への影響を解明する。NPRO用量依存性、UVA照射量依存性などの反応解析をおこなうとともに、放出するNO量とcGMP変動量との量的関係を明らかとする。また、シグナル伝達の次の段階への影響を解析する。 (ii) また、N-ニトロサミンを太陽光,UVA,UVB等で照射し、共存する核酸塩基、DNAならびに蛋白に対する酸化的反応やアルキル化等の付加体形成、DNA切断などの反応を解析し、光反応により生成した損傷核酸や蛋白の構造をUV検出、LCMSMS, NMRなどの機器分析により解析する。それら損傷による、遺伝毒性影響を解析するとともに、タンパク発現変動および酵素活性変動測定を通して、総合的な光毒性を明らかにする。また、細胞内の酸化ストレス応答・DNA修復・細胞死誘導への影響を明らかにする。 (iii)さらに、NPRO以外のN-ニトロサミンやN-ニトロソアミノ酸についても、研究を進める。 (iv) また、ヘアレスマウス皮膚におけるN-ニトロサミンの光活性化による遺伝毒性・皮膚炎症を解析し、表皮細胞におけるDNA損傷・タンパク損傷・シグナル伝達異常等を解析する。N-ニトロサミンの塗布部・溶媒塗布部、並びに光照射部と非照射の、それぞれの皮膚表皮細胞におけるDNA損傷・皮膚炎症等を比較・解析する。マウスでの成果と、ヒト由来皮膚角化細胞を用いた光遺伝毒性系で光遺伝毒性や細胞内影響を研究成果と、比較研究を行う。
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Causes of Carryover |
研究が順調に推移したため、予定したよりも試薬等の購入量を抑えることができ、次年度使用額が生じた。謝金は適当な人材が見つからなかったため、次年度使用に残した方が良いと判断した。旅費については、2年め、3年めに成果発表するとともに、研究情報収集するために、次年度使用に残した方が良いと判断した。また、その他の、共同機器等や動物室使用料金は当初予定したよりも少なくてすんだので、次年度以降の使用に回した。また論文投稿費用などについても、2年め、3年めに成果発表するために、次年度使用に残した方が良いと判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額を、設定した目標以上にさらに進めるために、計画的に使用する予定である。物品費は、実験研究するための試薬や器具購入費にあてる計画である。旅費は研究成果の公表と研究情報収集のため計画的に使用する。また、その他の費用も共同機器や動物室使用料などに、引き続き使用する予定である。また、謝金や旅費等の一部は消耗品購入などに流用して、研究促進を図る計画である。
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