2016 Fiscal Year Research-status Report
地域の水と命の環を学ぶ科学教材の開発:東海丘陵の湧水湿地と生物多様性
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15K00993
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Research Institution | Sugiyama Jogakuen University |
Principal Investigator |
野崎 健太郎 椙山女学園大学, 教育学部, 准教授 (90350967)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 科学教育 / 理科教育 / 環境教育 / 地域の自然 / 湧水 / 人間の影響 / 生物多様性 / 水源の保全 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.湧水の水質調査 学校における授業実践の基礎資料とするために、平成27年度に続き、湧水の水質調査を行った。平成27年度から調査を始めた名古屋市千種区山添町の湧水(椙山女学園大学付属小学校敷地内)に加え、新たに4地点の湧水を調査地として設定した。これは、本研究で事例として扱う東部丘陵の湧水水質の一般的な情報を得るためである。追加した湧水は、名古屋市千種区東山の「金明水」、名古屋市千種区本山の湧水、豊田市梅坪の湧水、豊田市八草の湧水である。合計5地点の湧水を月1回の頻度で調査した。さらに湧水の起源となる降水の水質を月1回以上の頻度で調べた。降水は椙山女学園大学星が丘キャンパス屋上で採取した。これらの結果をまとめると、5地点の湧水で共通する水質は、溶存態ケイ酸濃度であった。いずれも8~10mg/Lであり、同じ地質から湧出していることがわかった。一方で人為的な影響が大きい窒素、リン濃度であるが、リン酸態リン濃度が1~6μg/Lで地点間の差が見られなかったのに対し、硝酸態窒素濃度は、最も低い八草と東山の湧水で0.05mg/L、最も高い山添の湧水で5~6mg/Lとなり100倍の濃度差が見られた。硝酸態窒素濃度は、人口密集地帯ほど高く、人為的影響が強いことが推測された。降水のpHは4~5の酸性を示し、東部丘陵の湧水湿地が酸性である理由は降水の影響であることがわかった。以上の結果を図表にまとめ、教材を作成した。 2. 小学校5年生への授業実践 椙山女学園大学付属小学校5年生を対象に、単元「流れる水の働き」に関係させ、湧水と地域の自然環境に関する授業を行った。流れる水、すなわち河川の始まりが湧水にあり、湧水を持つ椙山小学校は、都市にありながら「水源の小学校」であることを説明した。ただし、湧水には人間の影響が強く影響することを亜硝酸態窒素の実験から明示し、椙山生に何ができるかを考えさせた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1. 東部丘陵の湧水環境の特性 2年に渡る調査の結果から、東部丘陵を代表する陸水環境である湧水湿地の水質の特性を明らかにすることができた。東海丘陵の湧水湿地は、シラタマホシクサ、シデコブシ、トウカイコモウセンゴケ、モンゴリナラ等の希少植物(東海丘陵要素)を育む場である。この湿地を涵養する湧水水質は貧栄養で酸性とされているが、その仕組みは説明されていなかった。本研究の結果、人間活動の影響によって湧水水質は富栄養、そして中性、アルカリ性にもなることがわかった。これまで湧水水質が貧栄養で酸性とされていた理由は、東海丘陵は、かつての激しい森林利用から、土壌が未発達で、降水の酸性が中和されず、かつ土壌中の栄養が乏しいため、降水中の栄養成分は植物に吸収されていたことに起因すると思われる。したがって、森林が発達し、人間活動が盛んになると栄養成分、酸性度も大きく変わることが推測された。この仕組みを図表にまとめて教材化を行うことができた。 2. 学校現場での授業実践 湧水を持つ小学校である椙山女学園大学付属小学校5年生を対象に正規の時間内で授業を行うことができた。児童の反応、教員の評価も高く、本研究で作成した教材は有効であったと考えられる。加えて、大学の教員の授業ということで、小学校では行わない本格的な水質分析を行ったが、分析した亜硝酸態窒素は、発色が鮮やかな桃色で児童に強い印象を与え、授業の質を上げるのに役立ったようである。 以上、調査、教育実践が上手く噛み合ってきており、本研究課題の進行は順調であると言える。残された課題は、公立の小学校で授業実践を行うことである。椙山小学校は私立学校であり、多様な背景を持った児童が在籍しているとは言い難い。ある程度、裕福かつ文化的な家庭環境にある児童であるため、授業が上手くいったとも言える。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 動画教材の製作とHPの開設 平成28年度の実践では、図表、写真を用いた静止教材であった。しかしながら自然の息吹は図表や静止画のみでは十分に伝わらないことを実感した。授業実践でも、児童自らの手で水質分析する化学実験の導入によって授業の質が高まった。よって動きのある教材が効果的であろう。今年度は、これまでに録画してきた、湧水と里山環境の動画を編集し、5分~10分程度の動画教材を制作する。これまでに制作した静止教材と動画教材は、新たに開設するHP上に公開する予定である。 2. 学校現場での実践の積み重ね 平成28年度に続き、椙山女学園大学付属小学校5年生を対象に授業を行うことが決定している。動画教材の効果測定を見るために、昨年度より多くの授業時間を担当したいと考えている。合わせて、椙山小学校以外の小学校でも授業を行い、身近な水環境、そして水の輪、生命の輪を理解させる授業実践を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
椙山小学校で授業実践を行った際に、湿地に生息する生物の写真を見せたが、小学校5年生ということで顕微鏡レベルの微生物の写真も重要であった。しかしながら、現有の顕微鏡写真撮影装置では、微生物、あるいは大型動植物の部位の写真が不鮮明であった。そこで教材の価値を高めるために、鮮明な顕微鏡写真を得る装置の購入を決断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
6月までに、顕微鏡写真撮影装置を購入する。
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Research Products
(2 results)