2015 Fiscal Year Research-status Report
南岸低気圧による積雪分布の体系化とメソ気象モデルを用いたメッシュ積雪地図の作成
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15K01161
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊豫部 勉 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50397155)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河島 克久 新潟大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (40377205)
本田 明治 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (20371742)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 南岸低気圧 / 積雪深分布 / 山地積雪 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 積雪観測資料の収集、およびデータベース化:気象庁提供の「地域気象観測委託積雪資料(1972年~2002年)に収録された冬期間(12月~3月)の日積雪深データを都道府県ごとに整理するとともに、観測点のメタデータも整備し、今年度は関東地方のデータベース化がほぼ完了した. (2) 太平洋側地域における積雪分布特性の解析:2014年2月14~15日にかけた南岸低気圧の接近による関東甲信地方の大雪について,広域積雪深分布の特徴を明らかにするため,複数機関並びに現地調査から得た積雪深データに基づき詳細な積雪深分布図を作成した.その結果,100cm以上の多雪域が山梨県一円と隣接都県山間部に広がり,富士山北麓では極大域が局所的に存在することが明らかになった. (3) メソ気象モデルを用いた降雪量分布の再現実験:前述(2)の大雪事例を対象にメソ気象モデルWRFを用いて,予備的な降雪再現実験を実施、積雪深の面的分布と比較したところ、概ね良好な結果を得た。また,積雪深観測点と観測データを整備する過程で,日本各地で計測された約2300地点の積雪深データをリアルタイムに取得・統合可能な「準リアルタイム積雪分布監視システム」を構築し,日単位の積雪深データに基づく積雪深分布を推定する手法を確立した. (4) 広域積雪調査:気象モデルによる山地の降積雪量の再現計算の精度評価のため,御嶽山田ノ原(標高2150m)において平成27年秋にインターバルカメラと雪尺を設置し,一冬期の積雪深の変化を連続的に測定した.また,御嶽山周辺において斜面別の複数の標高帯においてスノーサーベイを行い,積雪深,積雪水量,積雪密度に関する基礎データを取得した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
過去30冬季(1972~2002年)における長期積雪資料の整理とデータベース化については,一部地域並びに期間がまだ完了しておらず,当初の予定からやや遅れが生じている.そのため,太平洋側地域における積雪分布特性を議論するまでには至らなかった.一方、「準リアルタイム積雪分布監視システム」の導入は当初の予定になかった作業で、南岸低気圧のような短時間(数時間から数日程度)の積雪域変動の監視や雪対策にも利用できる可能性があり,応用範囲は広いと考えている.一方,山地における積雪深観測データの取得と広域積雪調査は,長野県御嶽山において斜面別での複数の標高帯においてスノーサーベイを行い,積雪特性の標高依存性や斜面方位との関係について分析を行っている.御嶽山での知見が他の山地でも適用可能かを検証するため,福島県安達太良山でも同様の現地観測を着手した.このように長期積雪観測資料の整備に遅れが生じた一方で,太平洋側地域を含めた積雪域を監視するためのシステム構築や当初予定していなかった観測点での現地観測などが進んだ.以上を踏まえると全体としてはおおむね研究は順調に進んでいると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
長期積雪観測データのデータベース化(電子化)については,平成28年度も引き続き積雪観測資料の整理を行い,太平洋側地域407地点における30冬期(1972~2002年)の日積雪深データのデータセットを完成させる.さらに,各観測点における年ごとの日最大降雪深,年最深積雪,極値等を抽出し,これらのメッシュデータのアーカイブ化を行う.また,太平洋側地域における積雪分布特性を解明するため,年最深積雪や年最大降雪深の分布状況の地理的対応や,地上天気図から分類した南岸低気圧の経路分布とどのような対応関係にあるのかを分析を行う.また,関東甲信地方を解析領域として,過去に年最深積雪をもたらした大雪イベントについてメソ気象モデルを用いた降雪量分布の再現実験を行う. 一方,高標高域における積雪深の現地観測は,観測地点周辺の雪が消え次第,2015/16年冬期の観測データの回収を行い,データ解析を進める.2015/16年冬期は全国的な暖冬少雪となり,平地のみならず山地でも積雪が少なかった.このような雪の降り方の年々変動が山地積雪特性にどのような影響を及ぼすのかを評価するためにも,次年度以降も現地観測を継続的に進める予定である.上記の観測で得られたデータを用いて,気象モデルでは考慮されていない上載積雪荷重による圧密効果を考慮した最深積雪の推定手法の開発に取り組み,気象モデルで再現させた降雪総量を用いて30冬期の年最深積雪のメッシュデータを作成する.研究成果に関しては,まとまり次第,適宜国内外の学会で発表するとともに,論文として発表をする.
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Causes of Carryover |
当初の予定では平成27年度にメソ気象モデルを用いた降積雪量の面的分布の解析を行うために使用する計算機並びにデータサーバーを購入し,数値実験等の仕様について検討する予定であった。しかし,想定していた処理能力以上のメモリ容量を必要とすることが判明し,再度選定していく過程で発注が遅れ,平成27年度の購入を断念した.購入経費を平成28年度の物品費に充当し,速やかに購入することを予定している.また,南岸低気圧に着目した広域積雪調査を当初予定していたが,2015/16年冬期は全国的な暖冬少雪年であったこと,さらに南岸低気圧による降雪自体も極端に少なく,当初計画の現地観測を実施できなかった.そのために計上した調査旅費が未使用額として発生することとなった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は当初の計画通りに関東甲信地方を解析領域とした過去の大雪イベント時の降雪量分布を明らかにすべく地域気象モデルを用いた再現実験を進めるために必要な計算機器(計算機・データサーバーなど)を購入するため,前年度からの繰り越し分を物品費として充当する.また,新規に追加した観測地点での積雪深観測のために必要な物品(インターバルカメラ,バッテリー,その他消耗品)の購入費を計上した.旅費については,当初の計画通りに広域積雪調査ならびに観測地点でのデータ回収を定期的に行うための調査旅費を研究分担者との研究打ち合わせや本研究の成果の学会発表のために用いる.また今年度投稿予定の論文の校閲,投稿料をその他費目として計上している.
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