2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K01397
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Research Institution | Kanto Gakuin University |
Principal Investigator |
簔 弘幸 関東学院大学, 理工学部, 教授 (50190715)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 聴覚神経補綴 / 電気刺激 / スパイク応答列 / 不規則点過程 / 最大尤度推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、人工内耳を装着した患者への音情報伝送の質向上をめざし、現実の生理学的機能を満足する聴神経線維モデルを用いた計算機シミュレーションを通じて、電気刺激波形の形状を適切に設計することである。聴覚神経補綴では、通常、レートが一定のパルス状波形が正弦波で振幅変調されて電気刺激として投与されており、特に高レートの場合に健常者の内有毛細胞シナプスで観測される自発性スパイク活動を擬似的に再現するため、正弦波のダイナミックレンジを拡張させる役割を果たすことが知られている。ところが、数kHzの高レートの場合に比べて、数百Hzの低レートの場合が、臨床の場で好成績を修めているとの報告がある。それゆえ、本年度は、パルス状波形が低レートの場合に着目して、レートが250Hzで、変調する正弦波の周波数を20Hzとして電気刺激波形を設定し、聴神経線維モデルで生成されるスパイク系列から情報量(情報レート)を測定した。また、シミュレーション実験では、情報レートはパルス状波形の振幅と振幅変調度をそれぞれ変化させながら測定した。その結果、情報レートについて、ある特定の振幅変調度のときに、パルス状波形の振幅の関数とした共振特性が見出された。このことは、パルス状波形の振幅と振幅変調度が適切に設定された時に、情報レートが最大化されることを示唆する。これらの知見を、イタリア、ミラノで開催された37th Annual International Conference of the IEEE Engineering in Medicine and Biology Societyのポスターセッションにて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、どのように低レートのパルス状電気刺激が正弦波をスパイク列によりよく反映させられるか、情報伝送の観点から、よくわかっていなかった。本年度は、計算機シミュレーションを用いて、低レートのパルス状電気刺激の正弦波変調度を変化させながら、スパイク列の観測から情報レートを測定し、それらの性質の理解に見通しを得たい。パルス状電気刺激波形のレートを250Hz、その振幅を255から300uAの間で変化させながら、変調する正弦波の周波数を20Hzに固定し、変調度を5,10,15,20%の4種類に設定してシミュレーション実験を実施した。情報レートはスパイク列のレートに相互情報量の積で定義した。相互情報量は、正弦波の初期位相が一様乱数で決められた30種類の刺激波形を、それぞれ30回繰り返し投与された応答としてのスパイク列から計算された雑音エントロピーを、それらすべてのスパイク列から計算された総エントロピーから減算することによって求められる。パルス状刺激電流の振幅を255から300uAに上昇させると共に、情報レートも上昇し、最大値をとり、その後下降し、一種の共振現象が観測された。この現象は変調度が5%のときに顕著に出現し,変調度を10,15%に上昇させるとともに消失する傾向となり、変調度が20%のときに消失した。これらの結果から、この種の共振現象は、時間的な包絡線の音声特徴量に関する情報伝送を強化することが示唆された。しかも、変調度が5%のときに顕著に出現する現象ゆえ、特に音圧レベルが低いときに情報伝送を強化するための役割を果たすと理解される。それゆえ、低レートのパルス状電気刺激がどのように正弦波をスパイク列によりよく反映させられるかについて、情報伝送の観点から、一定の理解に達したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、2年前の申請時に想定していた推進方策とは若干路線が異なるが、平成27年度に調査された、正弦波変調された低レートのパルス状電気刺激に対する聴神経線維モデルのシミュレーション実験の結果を踏まえ、スパイク列を不規則点過程、特に非一様ポアソン過程でモデリングすることができるかどうか調査したい。なぜなら、ひとたび、非一様ポアソン過程でスパイク列がモデリングされれば、対数尤度関数を解析的に計算することができるようになり、最大尤度推定法に基づいてスパイク列の性質を捉えるパラメータを推定することができるようになるからである。更に、尤度関数からフィッシャーの情報量行列を導くことができるようになるばかりでなく、推定されたパラメータの誤差共分散行列までも決定することができる。ひいては、最適な情報伝送をもたらすパルス状電気刺激波形を、尤度比を用いた判別分析を行うことで、決定されるのではないかと期待される。なお、非一様ポアソン過程としてスパイク列をモデリングすることは、すなわち、ポアソン過程を特徴づける強度関数をモデリングすることであり、本研究課題では、強度関数をvon Mises分布の周期関数で表現する。ここでvon Mises分布は、方位統計学においては、通常の統計学で偉大な役割を果たしているガウス分布的な位置づけにあり、位相のずれ(ガウス分布でいうところの平均に相当)と分布の集中度(ガウス分布でいうところの分散に相当)を表す2つのパラメータによって表現される。また、分布の集中度を表すパラメータは、神経生理学で用いられている周期性を表すvector strength(ベクトル強度)と第一種変形ベッセル関数を経て関連付けられている。本年度は、このように情報学的な切り口で、スパイク列応答列が健常者のそれに近づけられるようなパルス状電気刺激波形の特徴を調査していきたい。
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Causes of Carryover |
消耗品として計上していた物品を購入する必要がなくなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
国際会議におけるセッション企画開催の費用の一部として計上したい。
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