2015 Fiscal Year Research-status Report
走運動による神経障害性疼痛の緩和に対するGABA作動性ニューロンの関与
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15K01427
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
上 勝也 和歌山県立医科大学, 医学部, 博士研究員 (20204612)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 名誉教授 (00135691)
田島 文博 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (00227076)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 神経障害性疼痛 / 自発運動 / GAD65 / GAD67 / 熱痛覚過敏 / 機械的アロディニア |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度の研究実施計画は、「①神経障害性疼痛(NPP)モデルマウスの自発運動(VWR)量の変化および②NPPモデルマウスのVWRによる脊髄後角でのGAD65とGAD67産生量の変化」を明らかにすることであった。そのためNPPモデルマウスはSeltzerらの方法に従って作製し、マウスのVWR量と走速度はPSL術前後2週間の期間中、ランニング・ホイールを設置したケージにマウスを1匹ずつ飼育することで記録した。脳と脊髄はPSLの2週間後に灌流固定により摘出した。マウスの疼痛行動は「von Freyテスト」と「Plantarテスト」により評価した。 PSLマウスに対する2週間のVWRは機械的アロディニアと熱痛覚過敏を有意に緩和するとともに、興味深いことにその鎮痛レベルは強制的なトレッドミル走を比較して高値を示した。さらに機械的アロディニアと熱痛覚過敏の閾値とVWRの走行距離との間には有意な正の相関関係が示された。このようにPSL後のVWR量の増加は鎮痛レベルを高めることが分かった。免疫組織化学的手法により脊髄後角におけるGAD65とGAD67産生量の変化を検討した。PSL術は脊髄後角における両酵素の免疫染色強度を有意に減少させたが、2週間のVWRはとくにGAD65の減少を抑制した。これらの結果により、VWRはEIHを生み出すこと、さらにGAD65産生の維持を介したGABA作動性疼痛抑制システムの維持は、EIHを生じさせる要因の一つとなることが示唆された。 本年度の特筆すべき成果は、EIHは強制的なトレッドミル走だけでなくVWRによっても起こり、その鎮痛レベルは強制運動と比較して優れていることである。またVWRによるEIHにも脊髄後角におけるGABA作動性システムの維持が重要な役割を担うことを示唆する成果も得られたことである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度の研究目的は、「①NPPモデルマウスのVWR量を捉えること、②NPPモデルマウスに対するVWRが脊髄後角でのGAD65とGAD67の産生をどのように変化させるのかを明らかにする」ことであった。本年度の研究成果を要約すると次のようになる。すなわち、「①PSL後2週間のVWRは機械的アロディニアと熱痛覚過敏を有意に緩和するとともに、その鎮痛レベルは強制的なトレッドミル走と比較して高値を示すこと、②機械的アロディニアと熱痛覚過敏の閾値とVWRの走行距離との間には有意な正の相関関係が示され、VWR量の増加は鎮痛レベルを高めること」が明らかになった。さらに脊髄後角におけるGAD65とGAD67産生量の変化をみてみると、「①PSL手術は脊髄後角における両酵素の免疫染色強度を有意に減少させたが、②2週間のVWRはとくにGAD65の減少を抑制すること」も明らかにできた。これらの結果より、VWRはEIHを生み出すこと、さらにGAD65産生の維持を介したGABA作動性疼痛抑制システムの維持は、EIHを生じさせる要因の一つとなることを示唆する結果が得られた。このように、これらの成果は、本年度の研究目的を十分に達成したと評価することができる。尚、本年度の研究成果の一部は「上 勝也, 田口 聖, 田島文博, 仙波恵美子「神経障害性疼痛モデルマウスのExercise-induced hypoalgesiaに対する強制運動と自発運動の効果とそのメカニズム」 Pain Research, 30 (2015) 216-229.」として公表された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究成果のなかで今後の研究方向を左右する成果として私達は「PSLマウスに対する2週間のVWRは機械的アロディニアと熱痛覚過敏を有意に緩和するとともに、その鎮痛レベルは強制的なトレッドミル走と比較して高値を示すこと」を明らかにした。一方、VWRはマウスにとって一つの報酬であり、脳内報酬系の活性化は疼痛を緩和することがことが知られている。これらの研究成果を踏まえて、次年度の推進方策として私達は次の事項を予定している。すなわち「EIHにはVWRによる脳内報酬系の活性化が関与すると仮説を立て、NPPモデルマウスに対するVWRの効果を腹側被蓋野におけるドパミン(DA)作動性ニューロンの変化に焦点を当て検討する」ことである。おもな実験方法は次のとおりである。PSLマウスは、ランニング・ホイールを置いたケージあるいはランニング・ホイールを不動化したケージで2週間飼育する。2週間のVWR後に脳幹を摘出してVTAの凍結切片を作製し、DAニューロンとGABAニューロンの活性化状態をTyrosine hydroxylase、Parvalbumin、c-Fos、pCREB抗体を用いた免疫染色で捉えてNPPモデルマウスに対するVWRの効果を検討しようとしている。
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Causes of Carryover |
当初、脊髄後角(L4/5)におけるGABAニューロンサブタイプの特性をPSLおよび運動負荷群とで比較検討する計画を立案していたが、解析費用と労力(マウス数が膨大となるため)の点で遂行困難となることが予測された。そこで対象の検討を報酬系(VTA、側坐核)に絞り、実験手法も実験形態学(トレーサーと免疫組織染色)に切り替えたため、次年度使用額が生じた。しかしながら、この変更は運動による疼痛緩和のメカニズムを明らかにするという当初の目的に沿うものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
おもな研究費の使用方法は、実験用マウス、トレーサー(蛍光標識コレラトキシンBサブユニット)、各種抗体などの購入に充てる。トレーサー注入に必要な脳定位固定装置、空気圧注入装置(pico pump)については研究室内の備品を用いる。
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Research Products
(10 results)