2016 Fiscal Year Research-status Report
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15K01525
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Research Institution | Yamanashi Prefectural University |
Principal Investigator |
高野 牧子 山梨県立大学, 人間福祉学部, 教授 (30290092)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 身体表現 / レッジョ・エミリア教育 / 継続性 / レッジョ・ナラ / 実践的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はイタリアでの視察とそれに基づいた日本での実践活動を行い、検証を進めた。 第一に、イタリアでは、幼児学校3園の訪問調査とレッジョ・ナラを中心に乳幼児から小学校、中学校での身体表現、及びダンス教育の展開を視察した。レッジョ・ナラは言葉や音楽美術、ダンスが一体となった語りの祭典である。調査対象は2歳から6歳の幼児向けのプロ公演から、小学生へのワークショップ、中学生たちのダンス、そして幼児の保護者たちの語り等とした。「表現者」として存在できるように、幼児期から一人一人の表現を認め、多様な素材と表現方法から、子ども自身が選択し、自由でゴールフリーの制作活動を行い、誰もが自由な「表現者」として尊重されていた。また、プロによる指導と支援の体制が整い、生涯に亘り、一人の「表現者」として学び続けることができる社会システムが構築されていた。 第二に、日本での実践は、3~5歳児を対象として4回、2歳児とその保護者を対象として10回、3歳児とその保護者を対象に6回行った。ゴールフリーの創造的な活動を行うために、どのような環境を構成すると、創造的な表現が引き出されるのか、新聞紙、緩衝材、光と映像と影、伸縮布、フープ、不織布などを準備し、比較検討した。その結果、素材によって、子どもと母親の評価が異なり、身体表現の引き出され方も違っていた。特に、イタリアでよく利用されている映像や影は、日本でも子ども自身が身体意識を高め、母親や子どもが創造的な身体表現を生む環境構成であると結論付けた。その一方、素材を提供し、環境を整えるだけでは、生き生きとした表現活動を展開するには不十分な部分もあり、心と体をほぐし、イメージを付与することが課題となった。 第三に、研究の公表は、単著論文1編、共著著作1編、学会での口頭発表2回の他、幼稚園教諭や子育て支援者への講演などを通して、研究成果の公表に努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通り、イタリアでの調査研究を実行し、レッジョ・エミリアでの幼児教育について、3つの幼児学校の訪問見学と子どもたちとの文化交流、インタビューを行った。2年に亘る視察によって、レッジョ・エミリア教育での子どもたちの主体的な活動の様子を継続的かつ直接に見ることができた。また、教会系の幼児学校は、日本に近い一斉保育活動を行っており、3園を比較することにより、日本での援用に大きな示唆が得られた。 また、昨年度の課題としたレッジョ・ナラは、今年で10周年を迎え、2016年5月14日(土)~15日(日)市内の28カ所で、80以上のプログラムが同時進行で開催された。期待通り、総合的表現活動が展開され、多様な対象に向け、映像や大きな身振り、または動きを交え、巧みに表現し、観客を話の世界に惹きこんでいた。特に幼児向けのものは影と身体表現を融合したパフォーマンスであり、高い芸術性で興味深いものであった。また小学生向けのワークショップは、音楽や文字、絵、カードゲームなどの刺激からストーリーを共同で作り上げる内容で、示唆に富むものであった。また、保護者はナラの舞台に上がるために、半年間プロから指導を受けられる。中学生のダンスはプロの振付家が協力し、映像や光の演出と共に、完成度の高いパフォーマンスを繰り広げた。レッジョ・エミリア市では、子どもから大人まで途切れることなく、街全体が「表現者」を育む体制を構築していた。 実践的検討についても計画通り、イタリアで得られた環境構成や内容に基づき、子どもやその保護者との活動を行った。環境を整え、素材を提供し、その中で参加者自身が主体となり、自分なりに表現する活動の可能性とその課題について検討できたと考えられる。 結果の公表については、視察した結果を論文や『レッジョ・ナラのキセキ』として書籍にまとめた。また、学会発表2回の他、多数の講演会で成果を発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、2つの柱を立て、研究を進めていく。 第一には、実践の継続・データの蓄積を図る。イタリアでの調査研究を基に、環境設定からいかに身体表現を引き出すのか、計画、実践、評価、改善するPDCAサイクルを実施し、日本での援用を検討する。実施対象は、昨年度と同様に、2歳児とその保護者年間10回、3歳児とその保護者年間6回、3~6歳児、年間4回に加え、小学校低学年でも実践し、なだらかな接続教育に向け、検討を進めていく。 子どもと保護者を対象とする活動では、新聞紙、布、緩衝材等の素材を提供し、親子で工夫して表現活動を行うよう促し、どのような動きが創出されたか検討すると共に、活動後に保護者に活動を振り返り、保護者自身と子どもの満足度や意欲的参加などの項目について5段階評価し。保護者と幼児の関係性も併せて検討する。 さらに、小学校でも表現運動ではこれまで新聞紙での指導方法は多く実践されてきたが、伸縮布や緩衝材等は全く実践されていない。子どもたち一人一人の表現を即興的に引き出す方策として取り組み、表現運動を通したなだらかな接続を提案していきたい。 第二には、これまでの研究成果を国際会議で発表する。具体的には、アメリカのマイアミにあるBARRY大学で開催される18th World Congress for the International Association of Physical Education and Sport for Girls and Womanに参加し、ポスター発表を行う。本団体は、女性の体育、スポーツ、ダンス指導者が一堂に会し、研究交流すると共に、女性や人種の人権について、スポーツの立場より考える団体である。4年に1度国際会議が開催されている。世界各国から参加者があり、研究成果を広く公表する場にふさわしいと考える。さらに、論文としてもまとめ、公刊していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は1915円と少額であり、平成28年度に計画的に助成金をほぼ使い切ったといえる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
論文の別刷印刷の費用の一部に充当する。
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Research Products
(4 results)