2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K01536
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Research Institution | Tokyo Polytechnic University |
Principal Investigator |
柿沼 美穂 東京工芸大学, 芸術学部, 講師 (10401481)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 身体教育学 / 身体性哲学 / 身体知 / 現象学 / 舞踊理論 / 動きの質 / わざ言語 / エフォート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、人間の運動感覚(動感)の発生、運動メカニズムとの関連、伝達可能性等について、動感の記述言語に関する考察を含めつつ、現象学的・動態論的な観点と運動の実践指導面の双方からの理解を試み、新たな哲学的身体論の構築を行うことである。より具体的には、近年主流である数理科学的分析では扱うことが困難な「コツ」や「カン」等に関係する「身体知」的領域の把握を目指しており、そのためにはルドルフ・フォン・ラバンの提唱する動きの質の理論(舞踊理論、特にエフォート理論)による記述方法が重要な契機になるのではないかという予測を立てていた。 平成28年度までの文献調査等により、運動の指導実践において用いられている動きの質を表す言語表現には、ラバンのエフォートのほかにわざ言語と呼ばれるものがあることがわかった。わざ言語とラバンのエフォートは、互いに対照的な特徴を有している。そこで、平成29年度は、この2つを組み入れた運動指導実践実験の計画・実施・検証を行い、その結果を踏まえて、数理科学的な分析によるものとは異なる「身体知」の実証的再構築を目指すこととした。 平成29年5月に予備実験を、翌年1月に本実験を実施した。予備実験を設けたのは、このような実験の例があまりなかったため、まず予備実験を行って、実際の手順や結果の出方等に問題があれば、本実験においてそれらを調整し、より効率的かつ効果的なものとしたいとの考えからである。実際、予備実験の実施により、実験の手順やインタビュー内容、結果の考察方法などについて、多くの示唆が与えられ、本実験ではさらに実り豊かな結果を得られた。参加者のインタビュー内容は、すべて人間の運動感覚に関する深く豊かな示唆をもつものであると感じられる。現在、研究者の主観に左右されることがないよう、丁寧なコード化によって整理し、それに基づいた考察を行うプロセスを実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、平成28年度までの成果を踏まえ、予備実験及び本実験(予備実験を参照してさらに効果的なものとする)を実施し、実験結果の適切かつ有効なまとめ方の検討、それに基づく考察を行うための期間とした。次のような実績から当初の計画以上に進展していると考える。 (1) 予備実験及び本実験の実施について 本調査の主眼は、動きの質的な言語表現が、実際の動きにどのように影響するかを観察し、解析することにある。前年度までの実験方法に関する調査及び考察により、同一内容の舞踊のシークエンスを、動きの構成要素を手続き的に追う記述的な言語表現、動きの質に言及するわざ言語、及び、ラバンの舞踊理論であるエフォートを中心とする3つの言語群を用いて指導し、それぞれの違いを、生徒役の実験参加者の半構造化インタビューによって比較するという実験を組み立てた。ただし、このような実験はあまり例がないので、まず5月に予備実験を行い、その経験を生かす形で、翌年1月に本実験を実施した。 (2) 実験結果の適切かつ有効なまとめ方の検討、それに基づく考察の遂行について 5月に実施した予備実験により、生徒役の参加者それぞれの舞踊経験などの背景を知っておく必要性と、こうした各々の背景に合わせてインタビューを実施する重要性とが理解されたため、事前のアンケート内容とインタビューの時間を再検討し、本実験に臨むことになった。いずれの実験からも、人間の運動感覚に関する予想を超える非常に豊かな示唆を含む結果が得られた。従来の身体と言語の関係に新たな展望をもたらす可能性が感じられるため、丁寧なコード化に基づき、研究者の主観に左右されない考察を行えるよう分析を進めている。また、今後この実験に関する論文を広く海外に向けて発信することを考え、昨年度の舞踊学会において発表した予備実験に関する報告論文及び関連する発表論文を英訳した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、前年度に実施した予備実験及び本実験の内容の分析と考察、論文へのまとめを引き続き行い、さまざまな学会での研究発表や雑誌への論文投稿のほか、できるかぎり多様な方法での発表につなげていくことを目標とする。 この実験は、身体の動きの質とその言語表現の関係性を問うものであり、きわめて数値化しにくい、主観的な感覚についての考察に関連するものである。それゆえ、実験結果としてのインタビューは、質的なことがらを主眼とする。内容はいずれも、研究者本人が予想していた以上に、身体の動きの質とその言語表現の関係の豊かさを示唆するものとなったと感じられる。それゆえ、その分析にあたっては、コード化に基づく考察を丁寧に行い、研究者の先入見に結果が左右されないように努めている。 この実験について、今年度のメルロ=ポンティサークル、美学会、舞踊学会などの学会において報告し、できるだけ多くの研究者の意見をお聞きするとともに、識者の方々にもご助言をいただいて、考察に加えたいと希望している。さらに、メルロ=ポンティ、サックス、ダマシオ、金子などの先行研究を参照しながら、人間の運動感覚(動感)の発生、運動メカニズムとの関連、伝達可能性等に関する動感の記述言語についての吟味につなげ、新たな哲学的身体論の基盤となるような論文にまとめていきたいと考えている。 最終的には、海外の学会(International Congress of Aesthetics など)における発表、及び、学術雑誌(Contemporary Aesthetics, Journal of Aesthetics & Culture など)への投稿を目指すが、可能であればウェブサイトの立ち上げなど、その他の発信方法や、新たなプロジェクトの可能性についても検討する。
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Causes of Carryover |
平成29年度に未使用金額が発生した主な理由は、本研究の予備実験及び本実験による成果が研究者の予想を超える豊かな内容を含み、そのまとめと分析には考えていた以上に慎重な配慮が必要であると予想されたため、拙速な発表を行うべきではないと判断したことによる。この判断によって、実験全体に関する国内外の学会での研究発表や各種雑誌への投稿を先送りすることになり、それにかかる予算が未使用となった。また、研究内容の一部については、人体科学会や舞踊学会大会で発表を行っているが、学会の開催場所がいずれも東京都内であったため、大きな費用は発生していない。 そのほか、予備実験及び本実験の参加者のかたがたのご理解とご協力により、実験会場の場所となるスタジオの賃料、アルバイト代などをかなり低く抑えることができたのも未使用金額が発生した理由のひとつと考えられる。 現在、実験結果のインタビュー内容について、分析結果やまとめが研究者の主観や先入見に左右されたものとならないよう、コード化を基盤とした解読を進め、発表に備えている。平成30年度は、国内外の学会における研究発表および各種雑誌への投稿、可能であればウェブサイトの立ち上げ等を積極的に行う予定であり、こうした発表にかかる予算の使用が見込まれている。
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Research Products
(2 results)