2015 Fiscal Year Research-status Report
ろう児への手話を支える身体のエクリチュール性-文化的環境としてのろう保育者の意義
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15K01759
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
西岡 圭子 (西岡けいこ) 香川大学, 教育学部, 教授 (10237670)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ろう幼児教育 / メルロ=ポンティ / 保育環境 / 現象学的記述 / 遊び / 絵本読み聞かせ / 理由の空間 / 身体のエクリチュール性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ろう・難聴の幼児をことばの世界に導くために、豊かな身体表現を伴う手話を日常言語とするろうの保育者たちが必要不可欠な文化的環境であることを、現象学的に考察中である。27年度は、Tろう学園幼稚部に3日間、Sろう学園幼稚部に18日間の参与観察に入った。Tろう学園で観察できた内容に関しては、拙稿「人間は自画像としての絵画に溢れた世界を生きる身体である-後期メルロ=ポンティ絵画論の位相」(小熊正久他編「画像と知覚の哲学」2015年11月,東信堂、所収)に「付記」として言及した。Sろう学園に関しては、ふたりのろう者の保育を継続して参与観察し、当該保育者に送った毎回の考察文の総量が、400字詰め原稿用紙換算90枚ほどになる。 本研究の「目的」に、ろう保育者がろう・難聴児との関係を築く保育環境構成に関して考察するための重要項目として、①手話による絵本読み聞かせ、②描画指導、③文字指導の3つを掲げていた。27年度に特に大きな成果があったのは、①である。ろう者が手話的な身体表現によって、絵としての「ことば」の意味と文字としての「ことば」の意味を同時に表現できることにおいて、「見えないもの」であるはずの論理を、一気に「見えるもの」にする、非常に知的な読み聞かせを行うようすを、具体的に観察できた。聴者による「聞かせることば」での読み聞かせが、時として、文字の単なる音声化に終始してしまうことに比較して、「見せることば」である手話を駆使するろう者による全身体的読み聞かせの方が、はるかに知的でありうる。もとより、それは、「理由の空間」に身体的に存在するわたしたち人間に共通の「身体のエクリチュール性」ゆえであろう。さらに、ろうの保育者がろう・難聴の子どもたちのために構成する保育環境が、その都度の身体性を豊かに反映する可塑性・流動性に富んでいるありさまについても、考察の糸口がつかめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現象学的記述を中心とした考察のために、継続して参与観察できるろう保育の現場に恵まれたこと。ろう教育のスペシャリストであり、ネイティブなろう者の手話の読み取りにも堪能である研究者(筑波技術大学准教授 新井孝昭氏)の協力を得ることができたこと。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の「目的」に、ろう保育者がろう・難聴児との関係を築く保育環境について考察するための重要項目として掲げた3つの項目、①手話による絵本読み聞かせ、②描画指導、③文字指導、のうち、特に②と③について推進しつつ、さらに、ろう保育者による保育環境構成一般について、深く考察したい。
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