2015 Fiscal Year Research-status Report
アーミッシュの宗教アイデンティティの形成と消費文化の相互関係
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15K01863
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
野村 奈央 埼玉大学, 人文社会科学研究科(系), 准教授 (10709588)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アーミッシュ / 再洗礼派 / 消費文化 / 物質文化 / 民族誌 / 宗教社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年12月に埼玉大学東京ステーションカレッジで開催されたデザイン史学研究会の研究発表会にて、アーミッシュ社会におけるファッションについての研究を発表した。これまでの調査で収集したデータに加え、本年度に米国ランカスターのアーミッシュ居住区で実施した10代から20代の独身男女の集いでの参与観察や、30代の既婚女性の生地屋へのショッピングへ同行して収集したデータをもとに、10代から30代のアーミッシュ女性の衣服アーミッシュの衣服の細部(生地の種類、袖口やドレスのプリーツのデザインなど)を詳細に分析した。また、本発表では、アーミッシュ社会では個人間の伝承によってデザインが発展すること、画一的な衣服を着用しているように見られるアーミッシュ社会にも、彼ら独自のファッション制度が存在することを明らかにした。 研究会では、複数のオーディエンスから質問が寄せられ、今後は主流社会とのデザインやファッションの比較をすることで、新たな理論的展開の方向性を展開することが可能であるという指摘を得た。本発表への反響から、アーミッシュのファッションを検討することは、宗教社会学のみならず、ファッション研究の分野にも新たな理論的展開が期待できることを確信した。当初は国際学会での発表を目指していたが、締め切り等の問題で国内での発表となった。現在、本発表を発展させた論文を執筆中であり、平成28年度中に国際学術誌(Journal of Material Culture of Religion)に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の初年度にあたる平成27年度は、専門家と最新の研究動向や調査対象地に関する情報交換をしながら、現地調査の準備をすすめた。 まず、夏季には、米国で現地の研究者と意見交換を行った。。ペンシルバニア州では、エリザベスタウン大学再洗礼派・敬虔派研究所主任研究員ドナルド・B・クレイビル氏(アーミッシュ研究)、ニューヨーク州立大学ポツダム校教授カレン・ジョンソン-ウィーナー氏(文化人類学)と、今後の現地調査に関する打ち合わせを行った。また、インディアナ州で開催された全米キルト研究学会に参加し、ウェストチェスター大学准教授ヤニカン・スマッカー氏(アメリカ史/物質文化研究)と意見交換を行った。 さらに、ペンシルバニア州ランカスター郡、ウィスコンシン州フィルモア郡、ニューヨーク州中部のアーミッシュ・コミュニティで約3週間のフィールドワークを実施した。ランカスター郡では、インフォーマントのアーミッシュの家庭に滞在しながら、彼/彼女らの消費活動や余暇活動に同行しながら民族誌学的な調査を行った。本調査では、2010年頃と比較して、ランカスター郡のアーミッシュ・コミュニティにおける消費活動および物質文化が急速に変化していることが明らかになった。また、アーミッシュ自身がその変化に無意識であることも判明した。 最後に、ペンシルバニア州メノナイト歴史協会では、アーミッシュ向けに発行されている新聞Die Botschaftや機関誌など、日本では入手することが困難な一次資料を入手した。今後の研究に必要なアーミッシュ研究や宗教の物質文化研究に関する書籍やドキュメンタリー映画のDVDなどを購入し、資料の充実を図った。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査結果を踏まえ、フィールドワークで収集したデータの分析および資料の精査をすすめながら、来年度以降も引き続きインフォーマントの消費活動に同行し、民族誌学的な調査を実施する。 具体的には、2016年8月に米国ランカスターのアーミッシュコミュニティでフィールドワークを行い、コミュニティ内における消費活動の定点観測を実施し、消費活動の詳細をより明らかにしていく。消費者としてのアーミッシュを対象とした参与観察に加え、彼/彼女らの物質文化の形成に大きな影響力をもつ、生産者であるアーミッシュのアパレル会社の経営者に聞き取り調査を行う。今後の調査では、消費活動だけではなく、アーミッシュの消費活動や物質文化に対する意識についても、調査、分析する必要性を強く感じた。 これまでのフィールドワークの経験から、アーミッシュの意識調査を実施するには、従来の社会学・人類学的な聞き取り調査のアプローチでは、インフォーマントが調査者に強い拒否感を示すことが判明している。そのため、本調査では、マイクを使用したインタビューや質問票の使用を最小限にする。アーミッシュの家庭に2週間滞在し、家族と生活をともにしつつ、彼/彼女らの社会にできる限り溶け込みながら、エスノグラフィを作成する。同時に、エリザベスタウン大学再洗礼派・敬虔派研究所主任研究員ドナルド・B・クレイビル氏の助言を仰ぎながら、現地調査を遂行していく。 また、現地調査と並行して、国際学術誌(Journal of Material Culture of Religion)に投稿する論文を執筆し、研究の発信に努める。
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Research Products
(1 results)