2016 Fiscal Year Research-status Report
在米エルサルバドル系とメキシコ系の政治意識・行動とエスニック・アイデンティティ
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15K01895
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
中川 正紀 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (70295880)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | エスニック集団間の比較 / トランスナショナル関係 / 国際労働移動 / アイデンティティ / 定量的研究 / グローバル化と国民主権 / 在外国民の本国政治参加 / 国籍と国民意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年夏と2017年春のロサンゼルスでのアンケート調査のデータは処理が間に合わず、2016年度は2015年春・夏の収集データを分析対象とした。 研究代表者は、トランスナショナリズムに基づく諸行動の中で、本国生まれの在米エルサルバドル系二重国籍者が本国選挙での投票を目的に一時帰国する事例に注目し、米国籍取得理由および「永住帰国の夢」から、その行動の理由を考察した。投票目的で一時帰国する集団は、年1回は帰国し、それ以外の集団に比し、米国籍取得に政治的価値を特に見出してはおらず、むしろ本国からの親族等の「呼び寄せ」手段と考える。一方、それ以外の集団では、女性の方が米国籍取得により大きな政治的価値を見出し、米国での移民の被差別的状況を改善したいという現状変革的な意識が高い。また、投票目的の一時帰国集団では、将来的な本国への永住帰国の願望が強く、帰国のタイミングを治安・政情の安定化という本国状況の改善に求める傾向も強い。同集団では、本国との往来を「自由化」する米国籍の取得自体が、永住帰国への「近道」と認識されているといえよう。 連携研究者(中川智彦)は、特に本国政治への参加意欲を測るため、2015年調査で得た187名の在米エルサルバドル人(すべての在留資格の本国生まれ)を対象に、統一身分証(DUI:2001年導入)所持と本国選挙への参加意欲との関係について、渡米年を軸に分析した。DUI所持が本国政治への参加意欲の高さを示す傾向は、中米紛争期渡米者層では窺えたが、2001年以降の渡米者層では見られなかった。また、在外国民が参加を認められるべき本国選挙には、地方選挙や国会議員選挙よりも大統領選挙を望む声が圧倒的であった。一方、国会議員選挙では在外国民代表か地元代表かどちらを選びたいかについては、全体的傾向に反して、中米紛争期渡米のDUI所持者でのみ後者を望む声が優勢であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2015年3月および8月のサンフランシスコ、ロサンゼルスでのアンケート調査結果のデータ整理が計画通りにいかなかった関係で、2016年8月および2017年3月のロサンゼルスでの調査結果のデータ整理が大幅に遅れてしまい、2017年度に入り、いまだにデータ入力中の状況である。ただし、2016年度の現地アンケート調査では、博士課程の大学院生や修士課程修了生が調査補助員に加わったことにより、回答の完答率とその記録の精緻さがさらに増した点で効果が見られた。2016年度に収集したなかで最終的な有効回答部数は380部となり、2015年現地調査よりも収集データ数の点でも大きく進展したと言える。 2017年夏に計画中のロサンゼルスでの在米メキシコ系住民に対するアンケート調査に向けては、2017年2・3月に渡米した際に、現地協力者の手配で数名の現地メキシコ系支援団体の指導者らと会い、アンケート調査の際の調査地域の設定における協力を依頼した。面談時に二つの主要な支援団体から快諾を頂いたほか、その後のメールでのリマインドにも一団体から前向きな返答を得ている。それとは別に、在ロサンゼルス、メキシコ領事館にも協力の依頼をメールにて行っており、現在、返答待ちの状況である。 領事館からの返答をぎりぎりまで待ちつつ、メキシコ系支援団体の調査協力だけで行う場合の具体的な調査地の選定を十分行ったうえで、2016年夏に雇用した者も含めて、調査補助要員を募集し、早急に現地調査に向けて諸準備を開始したい。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者の研究成果では、米国籍取得の理由および将来における本国への永住帰還の希望内容の分析から、本国生まれの二重国籍者で、特に本国選挙での投票を目的に一時帰国する者には、米国籍取得理由として「親族の呼び寄せのため」という回答も多かった。しかし、実際は米国に永住する意志はほとんどなく、むしろ将来的には本国に永住帰還したいという願望が強いことがわかった。かれらのそうした長期的な目標の下で、米国籍取得と投票目的の一時帰国は意味を持ってくるといえる。 今後はまず、2016年度収集の調査データを用いて、二重国籍者の抱くあるべき選挙制度構想あるいはかれらの本国の政党や様々な本国・地元組織との関わり方(地元志向かそうでないか等)を分析し、投票目的の一時帰国者の集団とそれ以外とで本国と米国の間で揺れ動くアイデンティティのあり様を考察する。さらに、2017年夏に実施予定のメキシコ系住民対象のアンケート調査結果との比較をし、トランスナショナルな場での両者の政治意識・行動から見たエスニック・アイデンティティについて検討したい。 一方、連携研究者による在米エルサルバドル人(すべての在留資格の本国生まれ)を対象とした渡米年区分を軸にした分析についても、最終的に行うメキシコ系との比較を視野に入れながら、進めていく。また、二重国籍者や永住権保持者の中には、帰国時にDUIを取得し、本国で選挙に参加してきた人が複数いることがわかった。現行の国外投票制度は、適用が大統領選挙に限られるうえに、居住国でのDUI登録住所の変更や国外郵送投票者用の名簿への登録手続きが必要で、彼らにはデメリットが多い。2016年調査では選挙政治自体に対する態度も尋ねており、国外投票を通じた本国政治への参加が今後どの程度の拡がりを見せるのか、渡米年区分ごとの予測を可能にするデータが得られることを期待している。
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Research Products
(2 results)