2017 Fiscal Year Research-status Report
在米エルサルバドル系とメキシコ系の政治意識・行動とエスニック・アイデンティティ
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15K01895
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Research Institution | Ferris University |
Principal Investigator |
中川 正紀 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (70295880)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | エスニック集団間の比較 / トランスナショナルな関係 / 国際労働力移動 / アイデンティティ / 定量的研究 / グローバル化と国民主権 / 在外国民の本国政治参加 / 国籍と国民意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、処理が遅れていた2016年夏と17年春のロサンゼルスでのアンケート調査のデータを分析し、結果の一部を用いて、論文「内戦終了後のエルサルバドルからの対米移民の継続的流入とその原因:暴力から逃れて来る移民たち」『フェリス女学院大学文学部紀要』第53号、2018年、pp.137-156、を発刊した。内容は以下の通りである。 ピューリサーチセンターによると、2007年から15年にかけて、米国の全移民人口は10%増加した中で、メキシコ系移民は6%減少する一方、中米北部三か国出身の移民は25%の増加を見せた。しかしながら、中米北部三か国の一つ、エルサルバドルに限って言えば、米国への大移動の原因となったとされる中米紛争が1992年の和平合意によって終結を迎えたにもかかわらず、その後、現在まで対米移民の流れが衰えることなく継続しているのはなぜなのか。その主な原因を、中米紛争当時から本国強制送還者を通じてアメリカ合衆国から「輸出」されたギャング文化とその拡大による組織的暴力に求め、まずはその観点から中米紛争以降のエルサルバドルからのヒトの流れの歴史を考察した。そのうえで、アンケート調査の結果データを用いて、「暴力」から逃れてきた人々のプロフィール(入国形態、調査時点の法的身分、本国との物理的・心理的結びつき、本国への将来的な永住帰還の意志の有無など)を明らかにし、近年の中米からの移民の流れの真相に迫った。 連携研究者(中川智彦)は、これまでに引き続き、本国政治への参加意欲を測るため、データ分析に取り組んできている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
これまでのエルサルバドル系住民対象のアンケート調査では回収データ数が期待していたほどには集まらなかったという問題があるものの、かれらの政治的志向を考察するに十分なサンプル数はクリアしていると考えている。エルサルバドル系についてはこれまでのデータを部分的に用いて、いくつか研究論文をまとめている。 一方、もともと2017年度夏に予定していたメキシコ系住民対象のアンケート調査は、調査地に最適と思われる在ロサンゼルス、メキシコ合衆国領事館からその認可がなかなか下りず、年度内の調査実施はかなわなかった。しかし、目下のところ、2018年度夏に同領事館で調査を行うことの認可は受けているため、それに向けて調査補助要員の募集などの準備を開始している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究全体の流れでは、2018年夏にメキシコ系住民対象のアンケート調査を実施し、その結果データとこれまでのエルサルバドル系の結果データとの比較を通じて、トランスナショナルな場での両者の政治意識・行動から見たエスニック・アイデンティティのありようについて考察を行い、研究全体の総括としての研究成果を論文にまとめ、公表したい。 一方、2018年3月初旬から研究を再開した連携研究者(中川智彦)は、これまでに引き続き、本国政治への参加意欲を測るため、国会議員選挙への参加希望とその際の代表選出の在り方(在外国民代表か地元代表か)に対する在留資格(≒在米年数)別の傾向に焦点を当てる方向で、データ分析に取り組んでいく。地元代表の選出を望む声が優勢なのは中米紛争期に渡米した統一身分証(DUI:2001年導入)所持者層だけだったことがこれまでに判明しているが、これは実質的に二重国籍者で地元への往来が可能な層に顕著な傾向であることを表している。そこで、彼らとそれがかなわない層とで、本国政治に対する関わり方に今後どのような相違が表れ得るのか、在留資格と在米年数を軸にした分析を、近年の渡米動機の変化にも関心を払いつつ、進めていく。
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Causes of Carryover |
当初、最終年度の2017年度8月下旬に計画していたメキシコ系調査では従来のエルサルバドル系調査と同様に、在ロサンゼルス、メキシコ合衆国領事館を調査地の主要候補に考えていたが、エルサルバドル系およびメキシコ系NGOの幹部の紹介で同領事館担当者との直接面談にようやく成功したのは2017年8月末であった。同領事館での調査許可を打診してはいたが、最終的な認可が下りたのは2018年2月初旬であったため、補助事業期間内に調査を実施することは不可能となった。一方で、2018年8月下旬の調査は可能であるとの確約が同領事館から得られたため研究期間を延長し、その時期の調査実施の方向で2017年度分の助成金の使用を計画している。主な用途は、研究代表者と連携研究者の渡航費、現地宿泊費、および調査補助要員(リサーチアシスタント)のアルバイト代となる。
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Research Products
(1 results)