2018 Fiscal Year Research-status Report
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15K01995
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
西村 正秀 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (20452229)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 時間経験 / 把持モデル / フッサール / 延長主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、研究実施計画に記した課題(2)「見かけの現在の分析」の中から、主として見かけの現在概念の哲学史的分析を行った。具体的には、エトムント・フッサールによる時間意識理論において、時間経験の表象内容が持つ延長性(見かけの現在)がどのように分析されているのかを検討した。 フッサールの理論は、時間経験の表象内容は延長しているが、その媒体である時間経験自体は瞬間的であるとする「把持モデル」の代表例として解釈されてきた。しかし、近年C. Hoerlが指摘したように、成熟期のフッサールが時間意識の分析に導入した「絶対的に時間構成する意識の流れ」は、彼の理論が時間経験自体の延長性も認める「延長モデル(延長主義)」的契機を持つことを示唆している。Hoerl自身は、「絶対的な意識の流れは延長モデルが必要とする説明力を欠く」、「絶対的な意識の流れが含意する時間についての観念論は延長モデルと相性が悪い」という理由から、フッサールの理論を最終的には把持モデルとして解釈した。本研究では、延長モデルの本質を瞬間的な時間経験に対する延長した時間経験の形而上学的・説明的優先性とした上で、(1)フッサールの理論でもその優先性が認められること、(2)延長モデルにとって観念論は問題とならないこと、(3)フッサールの理論は超越論的な性質を持つ延長モデルとして理解できることを論じた。以上の成果は、現象学的観点からは見かけの現在は延長した時間経験の構造に依存したものとして理解されうること示しており、これは今後、現代の把持モデルを検討する際に考慮すべき論点となる。 本研究は、2019年2月に京都哲学史研究会で口頭発表され、その後、イリノイ大学シカゴ校のD. Hilbert教授、N. Huggett教授、M. Schectman教授との研究打ち合わせ(同年2月から3月)を通じて更なる推敲が加えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2018年度は「見かけの現在の分析」を哲学史的アプローチと現代哲学でのアプローチの両面から行う予定であったが、後者の「現代の把持モデルの批判的検討」について遅れが生じている。その理由としては次の2点が挙げられる。一つは、前者のフッサール理論の検討に予想以上に時間がかかったことである。もう一つは、現代の把持モデルの批判的検討に関して、Hilbert教授ならびにHuggett教授との研究打ち合わせを通じて、時間意識に関する現代の心理学的説明と、時間経験とその表象内容の両方を瞬間的なものと見なす「映画モデル」の再検討を行う必要が生じたためである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まず、現在途中である「現代の把持モデルの批判的検討」を早急に仕上げる。この課題については、2018年度の研究打ち合わせで論点整理はできているので、その論点に集中して早期に成果をまとめる。そして、引き続き三つ目の課題である「現代のゲシュタルト心理学の検討」を行う。
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Remarks |
2019年2月16日に京都哲学史研究会(京都大学楽友会館にて実施)において、「フッサールの時間意識理論における延長主義的契機」というタイトルで、個人発表を行った。
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