2016 Fiscal Year Research-status Report
生命倫理学・死生学における安楽死・尊厳死論の変容とキリスト教の歴史的社会的影響
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15K02023
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大谷 いづみ 立命館大学, 産業社会学部, 教授 (30454507)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川端 美季 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (00624868)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 安楽死 / 尊厳死 / フレッチャー / 生命倫理学 / 死生学 / ナチス・ドイツの安楽死政策 / ハダマー精神病院 / 相模原障害者殺傷事件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の第2年度に当たる2016年度前半、研究代表者である大谷は所属機関で在外研究のため英国に滞在しており、バッキンガムシャーにある小村レインエンドを拠点に、マンチェスター大学の客員研究員として同大学SALCの学生たちと安楽死に関するディスカッションやレインエンドの英国国教会に集う白人中流階層の人々との交流を通じて、英国で話題になっているスイスへの自殺ツーリズムへの関心のありようを目の当たりにすることができた。英国での国外研究中、6月にエジンバラで行われたFAB国際会議に参加したのち、米国ヴァージニア州立大学医学図書館でジョセフ・フレッチャー・コレクションの調査を行った。渡英前、フレッチャーが安楽死容認の着想を若き日のロンドン滞在期と仮定して調査研究を予定したが、フレッチャー・コレクションのなかにこれを立証する根拠を発見できなかった。しかし、膨大なフレッチャー・コレクションの手応えは大きく、今後、フレッチャーの思想の変容が生命倫理学の黎明期に果たした役割に、あらたな視座を得ることができた。 英国からの帰途、研究分担者の川端とドイツで落ち合い、ベルリンでナチス・ドイツ政権下のT4安楽死政策本部の跡地、テロのトポグラフィー、歴史博物館、ユダヤ博物館のほか、近郊のザクセンハウゼン強制収容所記念館を訪ねた。また、フランクフルトでは、イコン博物館ほか諸宗派のキリスト教会、ゲットー博物館、ユダヤ人墓地を訪ねたほか、近郊のリンブルクにほどちかいハダマー精神病院記念館を調査した。 2016年7月26日に相模原障害者殺傷事件が起き、被告が重度障害者の抹殺を「安楽死」との名付けで犯行に及んだことから、本研究はにわかに不幸な現実味を帯びたものとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を開始した当初の仮説は大きく外れたものの、ヴァージニア州立大学医学部図書館におけるフレッチャー・コレクションを訪ねてその概要をまのあたりにした成果が大きく、今後の研究の発展可能性を見いだすことができた。 また、ドイツで心身障害者安楽死政策の跡地であるハダマー精神病院記念館やザクセンハウゼン強制収容所の実地調査によって、文献研究では得ることができない「現場」が持つ重さを知ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
フレッチャー・コレクションは膨大であり、2016年度の調査では概要を把握してその一部を入手するにとどまった。本研究課題最終年度に当たる2017年度は、入手した一次資料の解析にあたりながら、ジョセフ・フレッチャーの思想の変遷が生命倫理学の黎明期と定着に果たした役割に焦点をあてて、本研究を継続発展させる端緒としたい。 研究代表者である大谷は、上記を念頭におきつつ、2017年度、懸案となっている単著書の出版に傾注する予定である。 研究分担者の川端は、安楽死・尊厳死論につながる日本の文化的土壌の成立および変容過程について検討し、加えてキリスト教・西欧の医学の日本への影響を視野に入れて調査を行う。
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Research Products
(7 results)