2016 Fiscal Year Research-status Report
マレーシア美術(1960-80年代)にみる現代美術の同時代性についての考察
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15K02179
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
石松 紀子 長崎大学, 多文化社会学部, 戦略職員 (70724037)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 美術 / イギリス / 植民地時代 / マレーシア / 同時代性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1960年代から1980年代までのマレーシア美術の変遷を検証しながら、欧米中心的な美術史や美術言説から排除されてきたアジア美術をグローバルな同時代性の観点から考察することである。平成28年度は国内においては福岡アジア美術館で、海外ではマレーシアの旧宗主国であったイギリスの国立公文書館、大英図書館、大英博物館で資料収集を行った。 福岡アジア美術館での調査では、マレーシアの作家資料を調べたが、すでにマレーシア国内で収集した資料以上の情報があまりなかったため、1989年から福岡市美術館で定期的に開催された「アジア美術展」に関わる新聞記事等の資料を収集した。それにより、マレーシア美術だけでなく、アジア美術の同時代性や日本国内における受容について知見を得ることができた。 またイギリスでは、1950年代のイギリス統治時代に設立されたMalaya Arts Councilや、パイオニア的な美術作家たちが学んだMalayan Teachers Training Collegeについて調査した。思いのほか資料は見つからなかったが、当時の事務的な文書を目にすることで、宗主国と従属国の主従関係があからさまに見えて有意義な機会となった。少なくとも、Malaya Arts Councilが企画した1950年代の展覧会図録を見ることができたのは収穫だった。 イギリスからの帰途、シンガポール国立美術館で「Artist & Empire」展を見学して、植民地時代にイギリスの美術作家によって制作された作品をとおして、当時の宗主国の人々がマラヤの人々に向けていた眼差しについて理解を深めた。 これまでの研究調査の成果として、マレーシアでの国際学会と日本(東京)ではカルチュラル・スタディーズ学会で発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は主に資料収集に焦点をしぼり、当初の計画どおりマレーシアの旧宗主国であったイギリスで調査を行い、また平成27年度にできなかった日本国内の調査を福岡アジア美術館で行った。 イギリスでの調査では、特にイギリス統治時代のMalaya Arts Councilと Malayan Teachers Training Collegeについて調査した。思いのほか「美術」に関する資料は見つからなかったが、それはある意味で、当時はまだ「美術」というよりも「工芸」に重点が置かれていたことが示唆されているといえる。つまり、1957年にマラヤ連邦がイギリスから独立したことを契機に、独立国家としての「美術」が急速に発展していき、美術の展覧会が1960年代以降に増えていく理由に気づかされる機会となった。 また、Malayan Teachers Training Collegeがあったリバプールでは、準備不足のために国立公文書分館で調査ができなかったが、奴隷博物館を見学して当時の奴隷政策や植民地政策についての知見を深めた。 福岡アジア美術館では、同美術館の母体となる福岡市美術館が、1989年以来定期的に開催してきた「アジア美術展」について資料収集を行い、同展に出品したマレーシアの作家を調べることで1980年代に活躍していた作家について理解を深めることができた。また、同展の資料をとおして、マレーシアだけでなくアジアにおける同時代性についても理解を深めることができ、マレーシアの美術を俯瞰してみるよい機会となった。資料収集は期待どおりには進まなかったものの、限られた資料やアジアの美術に関する資料をみることで別の視点を得ることができ、おおむね順調に調査は進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度でもあるため、マレーシア美術の変遷をさらに検証しながら、1970年代から80年代に活躍した美術作家や作品に焦点を合わせて現地調査を進める。多民族国家であるマレーシアであるが、1971年に施行された文化政策はイスラム文化の促進を進めるものであり、それは多くの美術作家の作風に影響を及ぼしたと考えられる。そのため、当時活躍した作家たちの作品を調査すると同時に作家本人にインタビューを行い、1971年以前と以後の変化を検証する。 また、1980年代以降になると新たな世代の作家も現れてくるため、当時の美術動向を反映する展覧会や美術作家グループについても調査を進める。パイオニア的な作家と若手作家との作風の違いについても、作家本人へのインタビューや文献資料の収集などをとおして検証する。インタビューについては、対象者の許可が得られれば映像としても記録する。関連する作品については、それを所蔵する美術館、ギャラリー、また個人に依頼して実見し、作品画像を記録する。 文献資料の収集や作品実見については、シンガポール国立図書館、シンガポール国立公文書館、シンガポール国立美術館などでも行う。日本国内では、国際交流基金における文献調査や、森美術館と国立新美術館で同時開催される東南アジアの現代美術展で1980年代以降の美術動向を概観する。 研究調査の成果として、昨年度参加した学会での発表を基に論文を執筆し、また東南アジアの国際学会に参加する予定である。
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Research Products
(3 results)