2016 Fiscal Year Research-status Report
宗教儀礼を視座とする唱導と縁起の統合的研究―中世宗教空間の復原をめざして
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15K02225
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
阿部 美香 東京大学, 史料編纂所, 特任研究員 (10449093)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 宗教空間 / 唱導 / 寺社縁起 / 宗教儀礼 / 縁起絵巻 / 聖教 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、唱導と儀礼の復原的研究の成果として、安居院唱導資料『上素帖』の基礎的研究を進めるなか、特に白山平泉寺(福井県勝山市)の落慶供養をめぐる表白に着目し、本文の分析と儀礼空間の復元を試みた。その結果、これまで知られていなかった平安時代末期に遡る平泉寺の宗教空間が明らかになり、地元(勝山市)で開催された藝林会学術大会(「白山信仰をめぐる諸問題」)において発表を行った。その成果は『福井新聞』(2017年1月3日、1面)に取りあげられ、白山開山1300年記念事業に取り組む地域社会の文化・観光資源への貢献に繋がった。 2、地獄極楽をめぐる宗教空間の復元的研究としては、『融通念仏縁起』の研究対象を近世の版本制作にも拡大して検討した結果、他に類を見ない写本と版本の独特な関係性が浮かび上がり、ハイデルベルク大学(ドイツ)での国際研究集会において報告した。また、ニューヨーク市立図書館(アメリカ)のスペンサー・コレクションならびにハーバード大学美術館(アメリカ)に所蔵される『因果業鏡図』を分析し、ハーバード大学と名古屋大学の共同研究として開催された国際ワークショップにおいてパネル報告を行い、国内外の研究者・院生との学術交流を深めることができた。 3、西尾市岩瀬文庫で開催された奈良絵本・絵巻の展覧会に参画し、「絵ものがたりファンタジアⅡ」プロジェクトチームの一員として『越境する絵ものがたり』の図録や研究資料集の作成と編集を行うとともに、共に市民向けの研究フォーラムや展示解説を行い社会への研究成果の発信に努めた。さらに、海外にむけても発信するために、コロンビア大学(アメリカ)で公開セミナーを開催し、岩瀬文庫の「えんがく」を題材として、ハーバード大学(アメリカ)での調査研究を踏まえた講演を行い、高い評価を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
唱導と儀礼の復原的研究を国内外での共同研究の場を通して多角的に進め、発信するとともに、新出資料を含む貴重な情報を広く社会に提供・還元できた。加えて、東京大学史料編纂所における2016年度一般共同研究「六所家史料旧東泉院聖教の復原的研究と公開」にも参画し、資料の保存と資源化を目指す総合的研究を富士市立博物館と協働して推進し、大きな成果をあげている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度も継続して唱導と儀礼に関わる調査研究と資源化を目指し、JSPS科研費基盤研究(S)「宗教テクスト遺産の探査と綜合的研究―人文学アーカイヴス・ネットワークの構築」による人間文化研究機構との連携展示企画や、JSPS課題設定による先導的人文学・社会科学研究推進事業(グローバル展開プログラム)課題C:グローバル人文学:日本文学・芸術・思想の普遍性の探求「絵ものがたりメディア文化遺産の普遍的価値の国際共同研究による探求と発信」、ならびに東京大学史料編纂所2017年度一般共同研究等の共同研究に参画し、総合的に中世宗教空間の復原的研究を進めていく。
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