2015 Fiscal Year Research-status Report
剽窃と自己の言葉―八文字屋本浮世草子における重複表現の研究
Project/Area Number |
15K02252
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Research Institution | Kanazawa College of Art |
Principal Investigator |
高橋 明彦 金沢美術工芸大学, 美術工芸学部, 教授 (00264573)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 八文字屋本 / 江島其磧 / 多田南嶺 / 井原西鶴 / 浮世草子 / 重複表現 / 理を責める |
Outline of Annual Research Achievements |
八文字屋本の作者・江島其磧は、自らの作品に井原西鶴の浮世草子の文言を丸取りすることがあり、研究史はこれを《剽窃》と見なしてきた。其磧は創意に欠けた凡庸な作家にすぎないのか? 其磧は剽窃(借り物)のほかに、自らが既に書いた文章・文言を再び別の作品においても使っている。本研究ではこれを《重複表現》と呼び、八文字屋本浮世草子において、語彙の用例索引を作成・増補することによって、この重複表現の実態を明らかにし、その上で、(1)言語における自己と他者という視点から江島其磧の再評価を試みるものである。くわえて、また用例索引をもとに次の論文を執筆する。 (2)「理を責める」登場人物たちとその《人間性》について。(3)『契情太平記』と多田南嶺の「やつし」について、(4)南嶺没後作品における、南嶺的手法―俳号の利用について。27年度については、上記4つの課題のうち(1)と(2)について研究の進展があった。 (1)本研究のメインたる《重複表現》の拾い出しについては、八文字屋本全集を元にこれを順次行っている途中である。江島其磧における《重複表現》の拾い出しとその分析は、これまで単に井原西鶴の剽窃として過小評価されてきた其磧のあり方を新しい視点(言語における自己と他者)から考察するもので、その重要性において浮世草子研究に重要な転機をもたらすものである。 (2)八文字屋浮世草子は、西鶴浮世草子と比べても人間がいきいきと描けていないと批判されてきた。しかし、低い評価を与えて満足するのではなく、なぜ人間が描けていない(ように見える)のか、そのシステムを考えるべきである。鍵は登場人物たちの言動を評してよく使われる「理を責める」という表現にあると私は考え、「理を責める」という語彙(類語も含む)を、西鶴浮世草子、八文字屋本からは悉皆的に、近松の浄瑠璃からは一部分を拾い出し、これを分析した。論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、八文字屋本の語彙索引の補遺作業を元として、大きく掲げたテーマ4点の一つづつを年度ごとに論文発表していく予定で計画を立ててある。論文の発表順序は、必ずしも計画どおりではないが、こつこつと作業を続けており、おおむね順調な進捗状況である。コンピュータなどの機器類も新調したため、およそ快適に作業が進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度以降も、八文字屋本全集により語彙の用例索引の増補につとめつつ、(1)重複表現、(2)理を責める、(3)やつし、(4)俳号の利用の4点について、さらに論究を深めていく。また、『本朝武家系図』など、時代物浮世草子の理解には欠かせない資料の整備・整理についても、調査研究を行う。
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Causes of Carryover |
調査旅費と複写費が、当初予定よりも執行されなかった。初年度は、物品費で購入・新調したコンピュータの研究環境を整え、またこつこつ入力する作業が多く、対外的な調査が少なかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度以降は、対外的な調査を必要に応じて計画通り行っていく予定である。
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Research Products
(1 results)