2017 Fiscal Year Annual Research Report
Interdisciplinary Study of Acceptance of Atomism and Transformation of Scientific and Utopian Discourse in Early Modern Era
Project/Area Number |
15K02291
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
川田 潤 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (70323186)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 原子論 / ユートピア / 肉体 / 魂 / 科学 / 共同体 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の最終年度にあたる本年においては、初期近代における原子論の受容と科学言説とユートピア言説の変容に関する学際的研究についての総括を行った。 17世紀後半から18世紀、原子論の受容に伴い、神の支配から離れた人間世界が「形成」され、新しい国家・社会構想が提起されるようになる。従来の研究においては科学言説の観点から、近代的な科学を基盤とした共同体の形成と、自然を破壊する危険な国家の登場、という二項対立的な見方が中心であった。しかしながら、原子論の観点から考察することで、国家の構成員である人間主体の不安と危機感への対処を国家がどのように考えるかという新たな観点を、この時期のユートピア言説が考慮しはじめていたことが明らかになった。これにより、キリスト教をよりどころとした安定性を喪失した主体が、社会の中でどのように肉体的な存在としての自己を位置付けるか、また、国家は主体をどのように安定的に位置付けるかという問題をめぐる言説空間の一端を明らかにした。更に、このような検討を行うことで、従来の科学的共同体の肯定/否定という二項対立の枠組みを修正し、主体の不安に対処する装置としてのユートピア思想が果たした役割を確認することができた。 具体的には、17世紀のヘンリー・モアの詩と散文を対象に、魂の物質性/非物質性に関する議論を検討し、モアが原子論を従来のキリスト教、ネオプラトニズムの枠の中に回収しようとしながらも、その過程において、新たな概念の設定を余儀なくされていたことを明らかにした。同時に、18世紀中葉のトバイアス・スモレットによる、明らかに原子論の影響を受けたテクストを検討することで、国際的な政治空間の中での人間の肉体性が与える/被る影響関係の一端を明らかにした。
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