2015 Fiscal Year Research-status Report
フィクション作家としてのHarriet Martineauと19世紀の心理学
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15K02310
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
大竹 麻衣子 桜美林大学, 人文学系, 准教授 (60352704)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Harriet Martineau / Hannah More / tract / Mrs. Sherwood / Unitarian |
Outline of Annual Research Achievements |
H27年度は、H.マーティノウのフィクション作品における心理表象の特色を1820年代後半の習作的な著作に的を絞って分析した。 最初の著作である宗教指南書Devotional Exercisesは、具体的な状況設定や個性を備えた架空の語り手による内省など、フィクション的な要素を多分に含んでいる。今回の分析は、そのような要素が同書を同時代の数多くの宗教指南書の中で特色あるものにしただけでなく、マーティノウが後年(1830年代末)の自身の小説Deerbrookで示したいくつかの特色の萌芽ともみられることを明らかにした。すなわち、中産階級の家庭生活を舞台とし、そこでの人間関係を軸に人物の内的な葛藤や成長を描くことで道徳的な主題を提示する、という特質である。この特質は、19C半ば以降のヴィクトリア朝小説の主流ともいえ、10年近く時代に先駆けてそのような特質を備えた小説を書いたマーティノウは何をその文学的源泉としたのかを考える上で重要な成果となった。 マーティノウの最初のフィクション作品Christmas Dayの分析でも有意義な成果が得られた。同作品は、18C末から19Cにかけて数多く流通した宗教的小冊子 (tract) のひとつとして書かれた宗教的訓話であるが、執筆当時、非国教徒のユニテリアン派の信仰を持っていたマーティノウの宗教的見解や心の問題に対する強い関心などのために、この物語が当時の一般的な宗教的訓話とは明らかに異なっていることを明らかにした。また、マーティノウが既存のジャンルの形式を利用しつつ、自らの目的に沿った内容を語るために巧みにその枠組みを変容させていることも示した。 これらのうち前半の成果は、2015年7月に英国のノリッジで行われたマーティノウ協会の年次大会にて口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H27年度中にマーティノウの初期フィクション作品における心理表象の分析を完了する予定であったが、予定していた4作品のうち2作品の分析にとどまった。 その理由は、すでに分析を終えた2つの作品とも、対象とした作品が属しているジャンルの中での位置づけを明確にするために、当初よりも範囲を広げて資料の収集と読み込み、分析を行ったことによる。進捗状況としては予定に遅れることになったが、研究成果としては、作品の分析により大きな意味を付加することができ、今後の研究について新たな発展の可能性も見いだせた点でよかった。 また、研究成果の発表が学会での口頭発表のみとなったことも、計画通りにならなかった点である。すでに口頭発表済みの論文は早めに学会誌に投稿したい。
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度の前半は、H27年度の課題としていた初期作品の残りの2作品、Principle and Practice, Five Years of Youthの分析を完了することを第一の目的とする。特に後者の分析は、マーティノウが青年期から晩年に至るまで心酔し続け、心というものの構造や性質に関する考え方の根本的な枠組みとしていたと思われるDavid Hartleyの観念連合説の考え方がどのように物語のプロットやテーマに織り込まれているかを検証することを目的としているため、本研究全体の要ともなるものである。計画に若干の遅れはあるものの、作品自体に加えて、HartleyのObservations on Manなどの文献の十分な読み込みと考察を行うことを優先する。 年度の後半は、シンポジウムへの参加や論文の投稿などの成果の発表に力点を置く。
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Causes of Carryover |
H27年度分の交付額から支出する予定で、2016年2月~3月にイギリスへの資料収集のための出張を行ったが、現地通貨への換金レートの変化等もあり、予想以上の出費となり、当該年度の交付額の残額を6万円ほど超過してしまった。このため、本出張分の請求を、次年度分の科研費が交付された後に行うことにしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度の未請求分の出張費をH28年度交付額から一部補てんして支出するため、H28年度は、年2回の出張費のねん出は難しくなると思われる。そのため、出張の回数を1回に減らす方向で検討する。
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