2016 Fiscal Year Research-status Report
フィクション作家としてのHarriet Martineauと19世紀の心理学
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15K02310
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
大竹 麻衣子 桜美林大学, 人文学系, 准教授 (60352704)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | Harriet Martineau / Hannah More / tract / Mrs. Sherwood / Unitarianism / Anna Barbauld / David Hartley |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は、前年度に引き続き、H.マーティノウが1820年代に発表した初期のフィクション作品を分析した。マーティノウの初期のフィクション作品は、同時代に一世を風靡していた子供や青少年向けの宗教小冊子(tract)の体裁をとっていたが、これらの宗教小冊子は主に福音主義派の信仰にもとづくものであった。 前年度(H27年度)の研究では、当時ユニテリアン派の信仰をもっていたマーティノウが、いかに既存の宗教小冊子の枠組みを踏襲しつつ、自身の宗教的見解や「心」に対する関心にそった物語を語り始めていたかを明らかにするため、マーティノウの最初の作品Christmas-Dayを福音派の宗教冊子の書き手を代表するMrs. Sherwoodによる作品と比較した。今年度は、マーティノウのユニテリアン派の信仰の特色を明らかにするために、同じユニテリアン派で、一世代前の詩人・子供向けの物語作家であるアナ・バーボールドの影響を検証した。マーティノウが1820年代のエッセイにおいて賞賛しているバーボールドによる数編の詩とエッセイを、マーティノウの初期フィクションと比較・検証した。バーボールドの詩的なイメージの源泉が、マーティノウと同じD. ハートリーの道徳哲学理論の影響を受けたものであることから、両者に共通する感情と理性に対する姿勢などを浮き彫りにすることができた。 研究の発表としては、マーティノウの心の表象の特質をC.ブロンテと比較する論考を国内の学会のシンポジウムにおいて講演し、またそれに基づく論文を所属機関の紀要に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
H28年度中にマーティノウの初期フィクション作品における心理表象の分析を完了する予定であったが、予定していた3作品のうち、1作品のみが完了し、残り2作品のうち、1作品は手つかずのままになった。 分析が完了した1作品(Christmas Day)と、現在分析中のもう1作品(Principle and Practice)は、いずれもH28年度から着手したバーボールドとの比較において検証しているが、当初の想定よりも多くの論点が見つかり、より範囲を広げた資料の収集や分析、考察が必要になったことが遅れの一因となった。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度の前半は、初期フィクション作品の分析を完了することを第一の目的とする。まず、Principle and Practiceにみられるマーティノウの「心」の捉え方およびその描き方を、アナ・バーボールドの影響、およびユニテリアン派の宗教・道徳の伝統との関係を明らかにしつつ検証する。次に、マーティノウによる1830年代の作品であるFive Years of Youthを、物語作家としての最初の到達点として、また、ハートリーの道徳哲学の理論が最も色濃く投影された作品として検証する。 秋以降は、マーティノウの出世作となったIllustrations of Political Economyにおける感情の描き方の分析に着手し、この作品の成功に、「心」あるいは「感情」についてのマーティノウの捉え方、描き方が大きく寄与していたことを明らかにする。 今年度は、本プロジェクトの最終年度であるため、マーティノウのフィクション作家としての発展段階を、初期作品から出世作までたどることで区切りをつけたい。また、これまでの研究成果を口頭発表および論文の形で発表することにも力を入れたい。
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Causes of Carryover |
H28年度は、当初2回で計画していたイギリスへの出張を、1回に減らし、利用した宿泊施設も費用を低く抑えられる場所であったために予算に余裕ができた。その分を書籍の購入などに充てたが、それでも当該年度の予算を使い切ることはなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、学会参加および資料収集のためのイギリス出張を夏に行う予定のため、昨年度からの繰り越しを含めた今年度の予算額に見合った使用が見込まれる。
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