2016 Fiscal Year Research-status Report
『ロビンソン・クルーソー』の再話に関する比較文学的研究
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15K02321
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
佐藤 和哉 日本女子大学, 文学部, 教授 (00235326)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 「語り」の構造 / 英語教育との接続 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、昨年度に収集した、ヴィクトリア朝期における『ロビンソン・クルーソー』のテクストの読解が中心であった。これらの読解により、それよりもずっと後のものと思われていた「語り」の構造における変容(具体的には、原作における時系列に沿った語りが、メディアス・イン・レースの手法によって、動的な場面から始まる語りになっていること)が、19世紀前半まで遡れることが確認できた。さらに、先行研究を参照しながらテクストを読解することで、19世紀に流行するパントマイムなどにも『ロビンソン』が演目として表れることが確認できた。この読解と並行して、ヴィクトリア朝における『ロビンソン』のテクストの収集を、主としてオンライン・データベースを用いて、引き続き行った。 次に、本年度の研究の方向として、大学における英文学教育/英語教育との接続が挙げられる。2013年に「多読教材としての『ロビンソン・クルーソー』 : Graded Readersのテクスト分析」を発表して以来、英語教育における『ロビンソン』にも着目してきた。今年度は、日本英文学会第88回大会シンポジウム「英語力向上と文学教材」において、司会を行うとともに「英文学教育への視聴覚教材の導入についての提言」を講師として発表した。この発表自体は『ジェイン・エア』に関するものであったが、条件が整えば、『ロビンソン』についても文学教育と英語教育を接続させる授業展開が可能であることが示唆された。英語教材としての『ロビンソン』も、日本的なテクスト受容の一形態として注目に値する。 また、『ロビンソン』の受容とサブカルチャーとの接続についても検討され、今年度はイギリスで発表されたグラフィック・ノベルに関する論文を発表した。これも理論的な関連では、さまざまなジャンルに展開していった『ロビンソン』を研究するうえでの下地となりうるものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者の学内責任者(学科長)就任に伴い、予定していた海外における調査を取りやめたが、その分は各種オンライン・データベースで補った。また、昨年度に収集したテクストの読解はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に、ヴィクトリア朝期のテクストに関する読解をさらに進める。 第二に、『ロビンソン』のグレイデッド・リーダーを音声教材と組み合わせることにより、英語教育との接続も考えたい。 第三に、『ロビンソン』のサブカルチャーへの展開の一形態として、SF小説・映画への変容を見る。その場合、これまで行ってきたような『ロビンソン』自体のアダプテーションのみの検討ではなく、「ロビンソン」的要素を含んだ、他の作品も見ていく。それらの作品のなかの、一見したところでは見過ごされてしまうような「ロビンソン」的要素を追求することで、近現代における欧米、あるいは日本の文化において、広く『ロビンソン』が受容されているかを示せるのではないかと考える。 今年は最終年度であるので、上記について、成果の発表に研究の力点を置きたい。
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Causes of Carryover |
図書購入に関する使用状況について、誤って実際よりも大きく認識していたため、残額が足りなくなることを危惧して買い控えてしまったので、結果として残額を出してしまった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すでに購入予定の図書は決まっているので、今年度中に購入する。
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Research Products
(2 results)