2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K02337
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
久保 拓也 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (80303246)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アメリカ文学 / マーク・トウェイン / 男性性研究 / 障害学 / 「失敗」の研究 / 男性の歴史 / ウィリアム・ディーン・ハウエルズ / オリオン・クレメンズ |
Outline of Annual Research Achievements |
今研究の開始となった平成27年度はアメリカ文学における「失敗者」と「逸脱者」像を、米国作家マーク・トウェインとその周辺人物、特にトウェインの兄であるオリオン・クレメンズ、及びトウェインの文学的なメンターであり終生の友となった作家、ウィリアム・ディーン・ハウエルズとの関係を考察した。研究成果は、今年度は研究発表を3回(全国大会シンポジウム、国際学会研究発表、地方支部大会シンポジウム各1度)行い、そのうち一つ(地方学会)の成果を論文にまとめることができた。平成27年5月に開催された日本英文学会第87回大会の文学部門シンポジウムにおいて、トウェインとハウエルズの1880年代における関係についての研究発表を行った。特に1885年は両者が共に代表作とされる作品を出版した年であったという事実に着目し、性質が異なるように見える彼らの作品が相互に関連性を持つものであるという主張を試みた。同年7月に米国ミズーリ州ハンニバルで開催されたThe Clemens Conference 2015においては、トウェインとハウエルズの共作である戯曲『科学者セラーズ大佐』に着目し、「失敗作」という評価が揺らがないこの作品とこの戯曲を元にしてやがて執筆される『アメリカの爵位権主張者』との相違点が示すものについての考察を行った。また同年11月に開催された日本英文学会北海道支部第60回大会シンポジウムでは、ハウエルズの代表作のリアリズムをトウェインがどのように評価していたと考えられるのかを考察した。この支部大会での研究発表は論文として、『北海道アメリカ文学』へ掲載される運びとなっている。また、カリフォルニア大学バークレー校に設置されているMark Twain Project を訪問し、同所が多数保管しているオリオンの直筆書簡を電子化するという、前事業からの継続作業を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全国大会や国際大会での研究発表を行うことができたことは研究初年度としては大きな成果だったと考えられる。この成果発表の機会は研究を進展させる重大な契機となった。一方、研究論文の発表数が予定より少なく、成果の発信の点で反省すべき要素が残った。資料収集は海外でのある程度長期の時間が必要な材料を扱っているが、その時間を取ることがなかなかできずに大きな進展を見られないでいることも事実である。それらのことを勘案すると、このような判断ができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は海外における資料収集と、論文執筆を主に行う予定である。できるだけ今年の早い時期に重要資料を所蔵する米国カリフォルニア大学バークレー校を訪れ、資料の閲覧・精査を行い研究を進展させたい。当研究代表者が現在行っている研究においてここで重要となるのは、トウェインとその兄オリオンの関係の考察である。同大学に設置されているMark Twain Projectには兄オリオンの直筆書簡が多数所蔵されている。当研究代表者は、同プロジェクトとの許可の元、これらをデジタル化し、今後の研究のために使用可能なデータとできるよう作業を続けている。兄オリオンは作家となるにあたっての大きなきっかけをトウェインに与えた人物であったにもかかわらず、トウェインからは「失敗者」などとして疎んじられた。この人物が残した文書を精査することを通じ、トウェインが「失敗者」との関係から逃れ得なかった事実の考察を継続する予定である。また、前年度から継続している、作家ウィリアム・ディーン・ハウエルズとの関係の考察も深化させる。ハウエルズはトウェインに成功をもたらす最も大きな要素であったが、同時にこの二人のあらゆる意味での「共作」が「失敗」と結びついた事実を考察する予定である。トウェインを巡る多様な意味における「失敗」、さらには「基準からの逸脱」の表象がこの作家を考察するための重要な要素となり得ると考えているが、今年度はこの二人との関係考察を中心に研究を進め、論文を中心に成果を発信する予定としている。また、最終年度の29年度には国際学会を含む二度の研究発表を希望しているので、その準備のための資料精査が重要となると考える。
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Causes of Carryover |
外国への出張費(学会発表1回、資料収集1回)2回分の経費として2015年度は450,000円を使用することとなった。残りの50000円に関して、次年度の予算と合わせて使用することが、旅費とするにあたって、また物品を購入するにあたって、より有効に使うことができるという判断により、次年度使用額を生じさせることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在の計画では、次年度の予算と合わせて外国出張の経費としてできる限り早期に使う予定である。
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Research Products
(4 results)