2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K02337
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
久保 拓也 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (80303246)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 19世紀米文学 / 男性性研究 / 障害学 / マーク・トウェイン研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
4年に一度米国ニューヨーク州エルマイラ市のエルマイラ・カレッジで開催されている、マーク・トウェイン研究の国際学会(The Eighth International Conference on the State of Mark Twain Studies)における研究発表に当研究の成果が採択され、発表を行えたことが今年度の特筆すべき成果としてあげられる。この発表はトウェインの最初期の小品から作家としての最盛期の代表作、さらにはその晩年に至るまでの作品を取り扱い、当研究が中心とする観点の一つである「障碍」の表象に作家トウェインがいかなる可能性と重要性をみていたかを論じるものとなった。「障碍を持つ身体」はトウェインが様々な意味を含ませて多用した強力なメタファーであった。当研究は自分自身が生きた時代のアメリカを「障碍を持つ身体」の表象の使用を通して考察するトウェインの試みが持つ重要性を考察し、この作家の思想・全体像の更なる理解につなげる試みとなっている。 当研究はトウェインと同時代の重要なアメリカ人作家ウィリアム・ディーン・ハウエルズの作品における「弱者像」の考察を含むものであるが、この作家に関しても、日本マーク・トウェイン協会全国大会において開催されたシンポジウムで、主にトウェイン、そしてヘンリー・ジェイムズとの関係性の中で論じる発表をする機会を得た。アメリカにおける代表的なリアリズム作家といわれる三名のうちこれまであまり注目を浴びることのないままのハウエルズについて、彼が小説家となるまでの経験を他の二作家のそれらと比較検討することを通じて、南北戦争を経験した時代におけるアメリカの状況と葛藤する個人のあり方の考察へと繋がってゆく研究である。前者の発表については研究論文を準備中であり、また後者の発表は、トウェイン研究雑誌に論文として所収となる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度に至るまでの研究成果発表状況から考えて、当研究はおおむね予定通り順調に進捗してきたと考えられる。今年度のみに絞ってみてみると、国際学会における研究発表が8月、国内の全国学会における発表が11月と計画的に行われ、それぞれの学会において、この研究が中心とするテーマである「弱者」あるいは「失敗者」の、トウェインやハウエルズの作品における表象がもたらす重要性を述べ、またそのうち一つの研究発表についてはすでに研究論文として掲載が決まっている。 反省すべきなのは、29年度に行われる予定だった資料調査を30年度に延期することとなったことである。この調査は今年度の早期に行いたいと考えている。これはマーク・トウェインの兄であるオリオン・クレメンズが残した手紙のデジタル資料化、当研究に関連するトウェインの未発表作品の閲覧などを含むものとなる。オリオンはトウェインが作家となる道筋において計り知れない貢献を果たしていると考えられるが、彼本人は社会における「失敗者」「逸脱者」であったと認識され、トウェインに与えた文学的・人間的な影響において現在は無視されている状態にある。このような無名の人物の声を、アメリカに影響を与えた人物との関係において考察するこの研究においては、この調査は大変重要なものとなる。これらの調査はすべてトウェイン関連の資料をほぼ全て所蔵する資料館(カリフォルニア大学バークレー校バンクロフト図書館に付設される The Mark Twain Project)において30年度前半に行う予定となっている。この調査結果をこれまで研究発表で行ってきた論考に新たな視点、また論考の正当性を主張するための証左として加え、複数の論文を米国の査読付き研究雑誌に投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は昨年度に実施できずに遅延させてしまった米国での資料調査を速やかに行い、その成果を加えて考察を深めた研究論文の積極的な発表を行っていく。それによって4年間におよぶこの研究のまとめを推進してゆく。まずは早期の資料調査となるが、すでに米国の関連する図書館と連絡を取り、訪問の計画を進めている。トウェインの未発表作品、あるいは残された手紙やメモ・ノートブックなどの資料は作家の思想をより深くするために不可欠なものとなるが、その数の膨大さのために、多くの関連書籍が出版されているにもかかわらず、まだ手つかずなままのものも多い。それらを直接閲覧できる資料館での調査を早急に実施する。 また当研究の成果発表については、今年度は研究論文の発表を積極的に行っていく。具体的には、国際学会での研究発表の内容を、更なる資料における発見を加えて発展させた論文を米国の文学研究専門誌に投稿することを予定している。加えてトウェイン作品の未発表作品の邦訳、オリオン・クレメンズの手紙のデジタル資料化を早急に行うことを目標としたい。
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Causes of Carryover |
29年度中に予定していたアメリカでの大学図書館における資料調査が勤務校の業務との関連で時間を確保することが難しくなり、30年度へ延期せざるを得なくなった。現在、米国カリフォルニア大学バークレー校図書館での資料調査を7月に実施できるよう、計画を進めている。この資料調査によって主張と論点をより明確にした研究論文を米国の雑誌に投稿できるよう準備を進めてゆく。
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